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米軍銃乱射事件が映す兵士の心の闇
軍医の常軌を逸した犯行は、米軍の精神異常が限界に達した兆候か
11月5日に米テキサス州フォートフッドの陸軍基地で起きた銃乱射事件は、暗い未来の前兆にすぎないのかもしれない。
全米最大の陸軍基地で陸軍少佐の精神科医が少なくとも13人を射殺したこの事件で、アメリカの国民は忘れがちな現実に直面することになった。兵士やその家族が、終わりの見えないストレスを抱えて悲惨な毎日を送っているという現実だ。オバマ大統領がアフガニスタンへの増派を決めれば、米軍は限界点に達するかもしれない。
逮捕されたニダル・マリク・ハサン容疑者(39)は、11月末にアフガニスタンに派遣されることが決まっていたという。乱射事件は、イラクとアフガニスタンに派遣される兵士が準備を行う基地内の施設で起きた。ハサンには戦地への派遣経験がなかったことを考えると、イラクとアフガニスタンの戦争によるストレスが国内の基地にまで及んでいると考えられる。
今年だけで17人が自殺した基地も
今年5月には、ケンタッキー州のフォートキャンベル陸軍基地で最多となる今年11人目の兵士が自殺。これを受けて同基地は3日間の休みを設けたが、その後にも6人の自殺者が出ている。
複数の調査報告によると、帰還兵のなかで心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える者は3分の1に上る。こうした兵士たちの心は家族から離れ、時にはとてつもない怒りを覚える。全米イラク・アフガニスタン退役軍人会によれば、「以前と変わらぬ状態で帰国する者などいない」という。
帰還後、常軌を逸した行動に出るのは駐留を繰り返した者が多いが、それ以外の兵士たちも仲間が身体的・精神的に多くを失って帰還するのを目にし、次は自分かと不安を抱いて生活している。
精神科医のハサンは、特に心的ダメージを受けやすかったのかもしれない。帰還兵をカウンセリング後、鬱病やPTSDに苦しむ従軍牧師は大勢いる。悲惨な体験談を聞き、痛みを共有し、助けられないという気持ちのあまり精神が限界を超えてしまうこともある。
オバマが8万人の増派を決断するとの見方も一部にある。そうなれば、近い将来少なくとも15万人近くの米兵がアフガニスタンに駐留することになる。心を病む兵士が増えるのは避けられない。
[2009年11月18日号掲載]