最新記事

米軍

戦場の日々を愛し過ぎて

2009年7月22日(水)16時34分
ダニエル・ストーン、イブ・コナント(ワシントン支局)、ジョン・バリー(軍事問題担当)

 ロバート・レークス陸軍上級准将(39)は、戦場が自分を変えたという自覚がある。国外派遣から戻るたび、どこか変わった感じがすると周囲から言われる。

 テネシー州のキャンベル陸軍基地でレークスに話を聞いたときはまだ午前10時だったが、彼は疲れ切って見えた。「(アメリカ国内の基地で)ごく普通の1日を終えただけなのに、ぐったり疲れ果ててしまうことがある」と言う。「すぐに横になって眠りたくなる。昔はこんなことはなかった。年を取ったのかもしれない。戦争のせいだとは断言できない」

 レークスがイラクで過ごした期間は、合計で52カ月。そのおかげで「18年続いた結婚生活が壊れてしまった」と言って、ぎこちない笑い声を上げた。「でも、私は命令どおり行動するだけだ。行けと言われた所に行くまでのこと。あまり深く考えていない」

 レークスには、パメラ・ドスという38歳の婚約者がいる。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックで知り合い、共通の趣味を通じて親しくなった。2人ともハーレー・ダビッドソンのオートバイをこよなく愛し、マシュマロを真っ黒に焼いて食べるのが好きだ。

家でもとっさに床に伏せようと

 ドスは、レークスが今後も戦闘地域への赴任を繰り返すと承知の上で交際を始めた。けれど、本当は国内に腰を据えてほしいと願っている。「やっと最高の相手と巡り合えたのに、その男性を世界と共有しなくてはならないなんて」

 本人が希望すれば、国外への派遣がない部署に異動することもできたはずだ。しかし、戦闘地帯への派遣を繰り返し望む兵士が往々にしてそうであるように、レークスには同僚に頼られているという自負がある。「私の代わりが務まる人間が部隊にいない。私には選択の余地がないんだ」

 兵士たちをむしばむのは、派遣回数より派遣期間の長さなのかもしれない。陸軍の情報将校ジェシカ・オール(42)は、現在ノースカロライナ州のブラッグ基地に配属されているが、39カ月の戦闘地域への派遣経験を持つ。

 国外への派遣が長期になると、普通の人生を送る上で支障が出てくる。「人生のあらゆることを保留にしなくてはならない。何一つ決められない」とオールは言う。

 配偶者や恋人がいる身にはつらい。オールは、陸軍の別の旅団の情報将校と付き合っている。軍の訓練中に知り合い、06年に戦闘地域で数カ月だけ一緒に過ごしたが、その後は遠距離交際が続いた。2月からは一緒に過ごしているが、夏にはボーイフレンドが国外に派遣されてまた離れ離れになってしまうと、オールは言う。

 マクブライド2等軍曹の妻スターは、夫のPTSDのような症状に気付いている。戦闘地帯から家に戻ってきてしばらくは、いつもピリピリした日々が続く。

 スターが洗濯かごをうっかり床に落としたとき、マクブライドが取り乱したことがある。「(敵の銃撃から身を守ろうとするみたいに)床に伏せようとしていた」と、スターは言う。「3カ月たってようやく普通に戻った」

 それでもマクブライド自身は、戦闘地帯への派遣が原因で精神を痛めつけられてなどいないと主張する。「助けが必要だと思えば、サポートを受けられる。2カ月に1回くらい、自殺予防の講習会もある」。もっとも、自殺は「弱い連中のやることだ」と言う。

 これまでにカウンセリングを受けたことは? 「1度もない。カウンセラーと1対1で会ったことはない」

 スターが口を挟む。「カウンセリングを受けたほうがいいのよ。しっかり記事に書いておいて」

 「いやはや」と、マクブライドが声を上げて笑った。

[2009年7月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中