最新記事

米政治

グアンタナモ騒動と弱虫アメリカ

テロ容疑者収容施設の閉鎖計画でオバマの足を引っ張るアメリカ議会の馬鹿げたダブル・スタンダード

2009年5月22日(金)17時04分
スティーブン・M・ウォルト(米ハーバード大学ケネディ政治学大学院教授)

グアンタナモ米海軍基地内のテロ容疑者収容所の閉鎖をめざすオバマだが…… Pete Souza-The White House

 米議会は5月20日、キューバにあるグアンタナモ米海軍基地内のテロ容疑者収容施設の閉鎖計画への予算を否決した。こんな馬鹿げたことなどあるだろうか。否決の理由は、収容者がアメリカ国内に移送されることを恐れてのことだ。

 だがちょっと待ってほしい。それは「自分さえ良ければ」という考えにほかならない。なにも公判を待つテロ容疑者を、市民が住む街中に放とうというわけではない。裁判(あるいは軍事法廷)での裁きを待つ間、彼らは拘置所に収容される。有罪判決が下れば、彼らは刑務所に送られる(すでに投獄されている全米20万人以上の収監者や、3000人以上の死刑囚と同じだ)。無罪となっても、国外退去処分となるだろう。

 今回の問題は、アメリカの超大国としての役割にダブル・スタンダードがあることを示している。

 一方では、外交エリートが国民に「アメリカは自由な世界のリーダー」として多くの世界的な責任があると訴え続けている。結果、アメリカは国防費に多額の資金をつぎ込み、外国の国内問題に首を突っ込んで説教をし、世界各地に米軍基地を展開し、兵力を遠方の危険地域に送り込んでいる。コラムニストのウィリアム・ファフが「アメリカは戦争中毒」と言ったのも、あながち外れてはいない。

 しかし、その一方でアメリカの政治家は、国外での活動は本国になんら影響がないものだと信じ込んでいる。しいて言えば、空港の保安検査場で長い列に並ばされる、という程度の認識だ。そのためジョージ・W・ブッシュ前大統領はテロとの戦いや、イラク戦争のための増税は行わなかった。

 そして今回、議会は数百人のテロ容疑者が国内のどこかの刑務所に収監されることにアメリカ国民は耐えられないと考えているのだ。

 アメリカがここまで気まぐれで自己中心的なら、この国に「世界のリーダー」として振舞う資格はない。予算案を否決した政治家らは、ただちにすべての現行の同盟関係を破棄し、国外でのすべての軍事活動を停止し、厳格な孤立主義に逆戻りせよと訴えるべきだ。

 もちろん、これは無茶なことだ。だが少なくとも、政治家が一貫した姿勢をもつことにはなるが。

Reprinted with permission from Stephen M. Walt's blog ,22/5/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中