最新記事

米大統領

オバマ就任50日にみるF・ルーズベルトの壁

大胆さとスピードを欠く経済政策で「オバマは期待はずれ」の失望が広がっているが、現代版ニューディール政策の実現はこんなにも難しい

2009年4月24日(金)01時45分
マイケル・ハーシュ(ワシントン支局)

リーダーの真価 オバマは、大胆な政策を実施して市場に自信を取り戻したルーズベルトのようになれるか
Kevin Lamarque-Reuters

 今の金融市場は、いわば崖っぷちで停滞し、回復への兆しが見え隠れしているような状況だ。しかし投資活動を再開するかどうか決める前に、この数週間で高まったバラク・オバマ米大統領への批判についてよく考えたほうがいい。

 就任後の100日間でどれだけの手腕を発揮できるかが、大統領の評価を分ける大きなカギだ。就任から50日以上が経過したオバマに対し、今ではかつて熱烈な支持者だった人々からも、最も重要な公約を果たしていないとの声が上がっている。

 オバマとティモシー・ガイトナー財務長官は、いわば経済版「パウエル・ドクトリン」のような圧倒的で強力な経済救済策を打ち出し、市場に自信を取り戻すと約束した。しかし実際は、慎重に検討した新しい政策を小出しにしているだけだ。オバマがこれまで打ち出した政策は多くの点で優れているが、大恐慌時代のニューディール政策に匹敵するものではない。

 かつて米上院銀行委員会のチーフエコノミストで、ウォール街や民主党に太いパイプをもつロバート・ジョンソンも、オバマへの期待ムードの変化を感じている。金融業界のエリートの一部は、ガイトナーと国家経済会議(NEC)の委員長ローレンス・サマーズの2人なら必ず危機を乗り越えられる、だからオバマが就任したらすぐに市況が好転すると信じていたという。

 しかし今では、深い失望を感じている者も少なくない。オバマ大統領が誕生した後でダウ工業株30種平均が20%近く下落したため、懐に受けた痛手も大きい。

  30年代のニューディール政策の是非をめぐっては、今も賛否両論がある。しかし、フランクリン・ルーズベルトが33年に大統領に就任後、すばやく市場に自信を取り戻したのはまちがいない。就任式の翌日には、国内の全銀行を休業させ、1週間以内に経営実態を調査すると宣言。国民に向けて定期的なラジオ演説も始めた。

 国内のムードは一夜で様変わりしたと、投資アドバイザーのリアクアット・アハメドは著書『ローズ・オブ・ファイナンス』に記している。銀行の前には、以前のように金を引き出すためではなく、預金しようとする人の長い行列ができた。銀行休業宣言から約一週間後、健全な銀行だけが業務を再開したが、その日のダウ平均は15%上昇。ルーズベルト政権が誕生して最初の100日間で75%も急騰した。

大恐慌時代より酷な環境

 一方のオバマは、最初の50日が過ぎた今も市場のムードに大きな変化は見られない。ウォール街から企業、一般家庭にいたるまで、問題の根底にあるのは今も信頼の欠如だ。人々が金融システムを再び信頼するようにならなければ、信用の回復は望めない。

 とはいえ、変化の兆しもある。信用問題の元凶が銀行であることは今も変わらないが、オバマ政権の幅広い政策が効果を上げはじめた可能性もある。とりわけ企業や消費者向けの融資拡大をめざすターム物資産担保証券貸出制度(TALF)の導入と、住宅ローン市場の安定化策は、「有毒な」証券化資産が大手銀行を破綻に招くリスクを軽減できるかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中