LAギャングの消えないタトゥー
ある日、イーストロサンゼルスのイノホスの家を訪ねたとき、ダビラは今もたまに昔の仲間と行動していることを認めた。「道を踏みはずすなよ」と、イノホスは諭した。麻薬と銃には手を出すなという意味だ。
2人はお互いのことを深く理解し合っているようだ。
イノホス 「おまえの気持ちは手に取るようにわかるよ。街にどっぷり漬かってれば無理もない」
ダビラ 「(敵が)そこにいるという感覚がたまらない」
イノホス 「よくわかるよ......『道に目を凝らして、なに探してるのよ』とサンドラに言われる」
「車を運転している間、敵がいないかどうか目を光らせてるのよ」と、サンドラが口をはさむ。
「体に染みついているんだ......(麻薬の密売や盗みは)もうしないけど、やっぱり街は俺たちの原点だから」と、イノホスが言う。
「いつになってもそれは変わらない」と、ダビラも言う。
ダビラのように若いと、足を洗うのはことのほかむずかしい。年長のギャングが侮辱の言葉を浴びせたり、ときには暴力で脅したりして引き戻そうとする。
ロサンゼルスのホームボーイ・インダストリーズは年間8000人を超す男女を支援しているが、ギャングに戻ったり麻薬に手を染めたりする者もいる。ギャングを抜けた若者は孤独感に苦しみ、精神的に参ってしまうことも多い。「途中で脱落する若者がとても多い。せっかく成功を手にしかけたのにぶち壊しにしてしまう」と、ホームボーイで薬物常用者のカウンセラーをしているファビアン・デボラは言う。自身もかつてギャングの一員で麻薬常用者だった。
どうにか踏みとどまりたいと、ダビラは思っている。「昔は、誰かがガンを飛ばしたとか、口のきき方が気に食わないというだけで銃をぶっ放していた。今は頭を冷やすようにしている......昔と同じ通りをのし歩いてるけれど、銃を持ち歩いていない」。でも----とダビラは言う。「もし誰かがふざけたまねをしたらやり返す」
ようやく見つけた幸せ
ダビラにギャング生活を抜け出してほしいと、イノホスは強く願っている。「寝る場所がないときは、いつでもうちに来ていいんだぞ......路上生活がどういうものか俺はわかっている」
いまイノホスが暮らすイーストロサンゼルスの借家の壁には、命の恩人だというホームボーイ・インダストリーズのグレゴリー・ボイル神父の写真に、ローラ・ブッシュと一緒に写った写真、そして映画『スカーフェイス』のポスター。アル・パチーノ演じる麻薬密売人トニー・モンタナのセリフが記されている。「俺はあるがままを受け入れる......世界を......そして世界すべてを」
掃除好きのイノホスは毎日、床をモップでふき、掃除機をかけている。堅気の暮らしに慣れるまでは、自分の中の悪魔をおとなしくさせるのに苦労し、麻薬の力に頼った時期もあった。ずいぶん年を取った気がすると言うイノホスは、いま29歳だ。
[2009年3月25日号掲載]