LAギャングの消えないタトゥー
しかし、昔の生活と完全に決別したわけではなかった。ホワイトハウス訪問から数カ月後の06年のある日も、昔の地元で古い仲間とつるんでいた。「プリモス」(マリフアナタバコにコカインを交ぜたもの)を吸っている連中もいたと、イノホスは振り返る。
そこへ警察が踏み込んだ。「ベッドの下に隠れた」とイノホスは言う。「警官どもはドアを壊して入ってきて、俺を見つけた。『違う! 俺は(ギャングを)卒業したんだ』と叫びたかった」
銃と弾丸が見つかったが、仮釈放中でなかった仲間が責任をかぶり、イノホスやほかの仲間たちは窮地を逃れた。昔の仲間とつき合わないでほしいと、妻のサンドラにいつも懇願されていた。「帰宅を許されたときに思った。『君の言うとおりだったよ。危うく一生を刑務所で過ごす羽目になるところだった』」
数カ月後、イノホスは仲間のところに戻っていた。「悪魔が呼んでいた」とサンドラは言う。仮釈放の条件を破り、違法行為である公共の場での飲酒を理由に、ギャング仲間と一緒に逮捕された。
更生者を襲う孤独と鬱
夫が刑務所にいる間、サンドラはいつも仕事が終わると子供4人を車に乗せて、刑務所の前まで行った。あらかじめ決めてあったとおりにイノホスが刑務所の窓越しに紙をヒラヒラさせ、サンドラが車のライトを点滅させて、家族の絆を確かめ合った。
半年後に出所すると、昔の地元に二度と出入りしないと誓った。それでも我慢できないときは、フローレンスに足を踏み入れる代わりに、いま住んでいるイーストロサンゼルスをゆっくり車で流す。
いつもは歯切れのいい話し方をするイノホスだが、この不思議な誘惑はうまく説明できないようだった。「たとえば、妻と言い争いになったとき戻りたくなる......昔の街に。そういうときは街のことを頭から締め出す......(フローレンスに向かわないように)同じ場所を車でぐるぐる回る......あそこに戻ることを考えないように。後は、刑務所暮らしのいまいましい日々を思い出すようにする」
誘惑と戦っているのはイノホスだけではない。イノホスと交流のある18歳のデービッド・ダビラも、ギャング生活を抜け出そうともがいている。半年前に少年院を出所した後はホームボーイ・インダストリーズで働き、問題を起こさずに過ごしているが、いまだに「ムエルトス13」というギャングの一員だったころ住んでいた地元で生活している。
いま寝泊まりしているのは友達の家。陰気な通りに立つ粗末な家を訪ねると、家の中には青いバンダナと鎖を体に巻きつけた死に神の像が飾ってあった。死に神はこの界隈(「死の街」と彼は言う)の象徴なのだと、長いまつ毛に優しげな面立ちのダビラは言う。
「仕事に行きたいのか、それとも古い仲間と一緒に暴れたいのか」----毎朝、家を出る前に自分の胸に問いかけていると、ダビラは言う。「誰かに銃を突きつけたくてたまらなくなる。わき出すアドレナリンが懐かしい」