元祖エコ大国の復活が始まる
オバマが率いるアメリカは悪役の地位を脱し、エコ政策のリーダーに返り咲くかもしれない
先駆者 カリフォルニア州は風力発電でもすでに世界をリードしている
Lucy Nicholson-Reuters
ガソリンや電気を使いまくり、京都議定書を批判し続けてきたアメリカは昔、環境先進国だった。「グリーン・ニューディール」を掲げるオバマ政権が誕生した今、世界有数の環境対策をもつ一部の州を牽引役に、変化が訪れる。
ちょっとややこしいクイズを一つ。日本やドイツより環境にやさしく、地熱エネルギーの生産量がヨーロッパの合計を上回る大国は?
ヒント。その国はエコ対策にかけては先駆者だ。自動車の排ガスやエネルギー効率、自然保護に関しては、世界的にみても厳格な規制が設けられている。
まさかアメリカのはずはないと、あなたは思うかもしれない。環境保護に向かう世界のなかで、アメリカが悪役の筆頭であることは誰もが知っている。安いガソリンと豊富な石炭を使いまくり、ホワイトハウスには京都議定書を批判する大統領が8年間も居座った。
アメリカのGDP(国内総生産)1ドル当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は、EU(欧州連合)の1.5倍にのぼる。国民1人当たりで計算すると、さらにひどい。アメリカ人1人当たりの年間排出量は20トンだが、EU市民はわずか8.4トンだ。
それでも答えはアメリカではないか、と思ったあなた。8割方は正解と申し上げておこう。アメリカでは州によって、環境保護への取り組みに大変な差がある。優等生の州は、その州だけを取り上げて「グリーンな国」と呼んでも差し支えない。
たとえば人口約3700万のカリフォルニア州は、GDP1ドル当たりのCO2排出量がドイツより20%少ない。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、総発電量の24%を占めている(ドイツは15%、日本は11%)。太陽光、風力、地熱を使った発電施設も、世界最大のものはすべてカリフォルニアにある。
経済危機のあおりで財政は破綻寸前のカリフォルニアだが、環境対策はピカ一だ。カリフォルニアが国だったら経済規模は世界10位だし、エコ対策でもトップレベルだと胸を張れる。
11州がドイツより優等生
バラク・オバマ新大統領は、雇用と環境問題を同時に解決する「グリーン・ニューディール政策」をひっさげて政権に就いた。あのアメリカが環境保護で世界の指導的役割を果たすのではないか、政策でも技術でもヨーロッパやアジアの国々をしのぐのではないかと、専門家はみている。
オバマは就任してすぐに、州が独自の環境政策を取ることを容認した。とくにカリフォルニア州は世界で最も厳格な排ガス規制をめざしていたが、ジョージ・W・ブッシュ前政権がこれを阻んでいた。
さらにオバマは、アメリカのCO2排出量を2020年までに3分の1減らし、2050年までに80%削減するという野心的な目標を掲げている。先ごろ議会を通過した7870億ドルの景気刺激策も、800億ドル以上は環境関連の減税や支出に振り向けられる。
米政府は過去と決別して、エコな州や環境技術産業の味方になろうとしている。EUや日本など環境分野で世界をリードする勢力と、もうすぐ肩を並べるかもしれない。「アメリカでは各地でさまざまな取り組みが行われていた。政府が積極的でなかったから目立たなかっただけだ」と、産業諮問機関クリーンテク(サンフランシスコ)のニコラス・パーカー会長は言う。
エコな州はカリフォルニアだけではない。人口1950万のニューヨーク州は、CO2排出量がカリフォルニア州より少ない。ドイツよりも環境汚染度の低い州が、全米には11州ある。
テキサスやフロリダ、重工業地帯のペンシルベニアやミシガンなど、CO2排出量の多い「茶色い州」があるのは確かだ。だがヨーロッパも、エコな国ばかりではない。EU加盟27カ国のうち23カ国は、カリフォルニアより環境汚染がひどい。ポーランドやチェコなど数カ国は、GDP1ドル当たりのCO2排出量がペンシルベニア州などよりも多い。
ブッシュ前政権が悪化させた統計や世界でのイメージの向こうに目を凝らせば、環境対策に前向きなアメリカの姿が見えてくる。「政府の環境対策は骨抜きだが、州や自治体レベルの取り組みは素晴らしい」と、ロッキーマウンテン研究所(コロラド州)のエイモリー・ロビンズ所長は言う。
カリフォルニア州は厳格な排ガス規制を独自に打ち出して注目されたが、他の州も環境保護に積極的な取り組みを始めている。1月にはニューヨーク州やマサチューセッツ州など北東部10州が、独自の排出量取引制度を開始した。州内の公益企業はCO2を1トン排出するごとに排出権を購入し、州政府はその売却益を環境にやさしいプロジェクトに投資する。
カリフォルニアを含む西部7州はカナダの4州とともに、12年までに独自の排出量取引制度を導入する。米政府を通さずに直接EUと協議し、世界規模のCO2排出量取引体制をつくることをめざしている。
さらにアメリカは昨年、ドイツを抜いて世界最大の風力発電大国になった。テキサス州には過去3年間で計5000メガワットの風力発電施設が設けられた。風力発電量ではテキサスとカリフォルニアに次いで3位のアイオワ州でさえ、日本の発電量を上回っている。