最新記事

米環境

元祖エコ大国の復活が始まる

2009年4月9日(木)11時34分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

ブッシュの怠慢がよかった

 アメリカがさらにエコ大国への道を歩めば、70〜80年代のような世界の環境リーダーの地位を取り戻せるかもしれない。80年代には、世界で新規着工された風力発電施設の90%がカリフォルニア州に造られていた。70年の大気浄化法や72年の水質浄化法は、当時としては革命的な法律だった。

 カリフォルニア州の自動車排ガス規制は他国のモデルとなった。オゾン層を破壊する冷却剤やスプレーの代替品を最初に商品化したのも、デュポンなど米企業だった。

 酸性雨の原因となる硫黄や窒素の排出量削減のため、初めて排出量取引制度を導入したのもアメリカだった。当時の国際会議では、ドイツなどヨーロッパの汚染大国が雇用や利益を保護するという理由で環境保護に消極的だったが、アメリカは違った。

 そんな米欧の立場は、80年代にロナルド・レーガン大統領が環境規制を大幅に緩和したことで逆転してしまう。だが今でもアメリカは、国土保全や生物多様性の保護、水質浄化法など一部の環境政策で世界をリードしている。アメリカが環境規制違反に対して設けている厳しい罰則はヨーロッパにはみられないと、ベルリンに本拠を置く環境問題シンクタンク、エコロジックのアンドレアス・クレーマー所長は言う。

 環境対策に消極的だった過去20年間を、アメリカは逆に強みにできるかもしれない。ブッシュ前政権が消極的だったため、州政府や地方自治体は独自に対策を進めざるをえなくなり、そこから新しいアイデアが続々と生まれた。

 公益事業に消費電力の一定割合を代替エネルギーからつくることを義務づける「再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS)」を設けた州も、24に達している。この24州でアメリカの発電量の50%以上をまかなっている。代替エネルギーからつくるよう義務づける電力の割合は20〜25%が標準で、州ごとに達成目標年を定めている。カリフォルニア州の目標年は、もう来年だ。

 こうした動きが、風力や地熱、太陽光を使う発電施設の建設ラッシュにつながった。900以上の都市が京都議定書に従う形で、建築物や公共交通を改良したり、公用車をハイブリッド車に替えるなど独自の排ガス削減計画を練っている。「後になって振り返れば、ブッシュ政権が怠慢だったことがかえってよかったと思えるかもしれない」と、クリーンテクのパーカーは言う。

 中央集権型のヨーロッパでは政策決定に時間がかかり、いったん決まった政策を変えるのも大変だ。だがアメリカは、革新的な政策を柔軟に試すことができる。州政府や地方自治体は実験精神が旺盛で、他の自治体のいい政策はすぐにまね、悪い政策は手直しする。

 オバマがカリフォルニア州の野心的な排ガス規制案にゴーサインを出したことで、ほかにも13州が同様の規制に取り組むと発表した。14州で売られる新車は 20年までに1リットル当たり約18キロの低燃費を義務づけられ、EUの目標数値にほぼ追いつく。自動車販売台数はこの14州だけで全米の40%を占めるため、自動車大手はビジネスの転換を迫られるだろう。

 カリフォルニア州は昨年9月、2020年までに新築住宅をエネルギー収支がゼロの「ゼロ・ネット・エネルギー・ハウス」にする計画を打ち出した。各戸は太陽光発電などで電力を自給自足する仕組みだ。この計画にも他州が追随するかもしれない。

 「アメリカでは州レベルで競い合うように創造性を発揮する。排ガス規制でも代替エネルギー技術の開発でも、ヨーロッパより優れたシステムをつくり上げるかもしれない」と、ベルリン自由大学環境政策研究所のミランダ・シュロイルス所長は言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中