元祖エコ大国の復活が始まる
ブッシュの怠慢がよかった
アメリカがさらにエコ大国への道を歩めば、70〜80年代のような世界の環境リーダーの地位を取り戻せるかもしれない。80年代には、世界で新規着工された風力発電施設の90%がカリフォルニア州に造られていた。70年の大気浄化法や72年の水質浄化法は、当時としては革命的な法律だった。
カリフォルニア州の自動車排ガス規制は他国のモデルとなった。オゾン層を破壊する冷却剤やスプレーの代替品を最初に商品化したのも、デュポンなど米企業だった。
酸性雨の原因となる硫黄や窒素の排出量削減のため、初めて排出量取引制度を導入したのもアメリカだった。当時の国際会議では、ドイツなどヨーロッパの汚染大国が雇用や利益を保護するという理由で環境保護に消極的だったが、アメリカは違った。
そんな米欧の立場は、80年代にロナルド・レーガン大統領が環境規制を大幅に緩和したことで逆転してしまう。だが今でもアメリカは、国土保全や生物多様性の保護、水質浄化法など一部の環境政策で世界をリードしている。アメリカが環境規制違反に対して設けている厳しい罰則はヨーロッパにはみられないと、ベルリンに本拠を置く環境問題シンクタンク、エコロジックのアンドレアス・クレーマー所長は言う。
環境対策に消極的だった過去20年間を、アメリカは逆に強みにできるかもしれない。ブッシュ前政権が消極的だったため、州政府や地方自治体は独自に対策を進めざるをえなくなり、そこから新しいアイデアが続々と生まれた。
公益事業に消費電力の一定割合を代替エネルギーからつくることを義務づける「再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準(RPS)」を設けた州も、24に達している。この24州でアメリカの発電量の50%以上をまかなっている。代替エネルギーからつくるよう義務づける電力の割合は20〜25%が標準で、州ごとに達成目標年を定めている。カリフォルニア州の目標年は、もう来年だ。
こうした動きが、風力や地熱、太陽光を使う発電施設の建設ラッシュにつながった。900以上の都市が京都議定書に従う形で、建築物や公共交通を改良したり、公用車をハイブリッド車に替えるなど独自の排ガス削減計画を練っている。「後になって振り返れば、ブッシュ政権が怠慢だったことがかえってよかったと思えるかもしれない」と、クリーンテクのパーカーは言う。
中央集権型のヨーロッパでは政策決定に時間がかかり、いったん決まった政策を変えるのも大変だ。だがアメリカは、革新的な政策を柔軟に試すことができる。州政府や地方自治体は実験精神が旺盛で、他の自治体のいい政策はすぐにまね、悪い政策は手直しする。
オバマがカリフォルニア州の野心的な排ガス規制案にゴーサインを出したことで、ほかにも13州が同様の規制に取り組むと発表した。14州で売られる新車は 20年までに1リットル当たり約18キロの低燃費を義務づけられ、EUの目標数値にほぼ追いつく。自動車販売台数はこの14州だけで全米の40%を占めるため、自動車大手はビジネスの転換を迫られるだろう。
カリフォルニア州は昨年9月、2020年までに新築住宅をエネルギー収支がゼロの「ゼロ・ネット・エネルギー・ハウス」にする計画を打ち出した。各戸は太陽光発電などで電力を自給自足する仕組みだ。この計画にも他州が追随するかもしれない。
「アメリカでは州レベルで競い合うように創造性を発揮する。排ガス規制でも代替エネルギー技術の開発でも、ヨーロッパより優れたシステムをつくり上げるかもしれない」と、ベルリン自由大学環境政策研究所のミランダ・シュロイルス所長は言う。