社会的孤立で記憶力は低下する、孤立していなくても「孤独感」で衰える【最新研究】
Loneliness and Aging
孤独はこれまで考えられていた以上に記憶力の低下を招く可能性が DMP/ISTOCK
<「使わなければ失われる」仮説に研究チームは注目した>
加齢に伴う記憶力の衰えは、本人が孤独感にさいなまれていると加速されるらしい。
WHO(世界保健機関)は昨年、社会的孤立は高齢者の4人に1人が経験する「世界的な公衆衛生上の懸念事項」だと宣言した。過去の研究によっても、社会的孤立や孤独感が人々の精神的・肉体的健康に深刻な影響を及ぼすことは知られており、心疾患や高血圧、糖尿病、鬱病や不安神経症などのリスク増大に関連しているとの指摘もある。
ウォータールー大学(カナダ)の研究チームが5月に学会誌「老年学・老年医学研究(Archives of Gerontology and Geriatrics)」に発表した論文によると、社会的孤立や孤独感は記憶力の衰えにも関与している可能性がある。
社会的孤立と孤独感は併存することも多いが、同じものではない。社会的孤立は客観的指標で、個人の社会的接触の数で決まる。一方の孤独感は主観的なもので、独りぼっちで孤立しているという感情を指す。客観的には孤立していない状況でも、人が孤独感を抱くことはある。
研究チームは中高年の成人を対象に、6年間にわたって調査を実施。被験者は①社会的孤立と孤独感の両方がある、②社会的孤立のみ、③孤独感のみ、④社会的孤立も孤独感も認められない──の4グループに分類された。
論文の筆頭執筆者で同大学公衆衛生学大学院の博士課程に在籍するジ・ウォン・カンによると、「社会的孤立と孤独感の両方が認められる人は記憶力の低下が最も著しく、調査対象の6年間で状態が一段と悪化していた」。
社会的ネットワークとの交流が減ると記憶力の衰えにつながる
ここまでは予想どおりだが、意外な発見もあった。「従来は主観的な孤独感を考慮せず、社会的孤立の影響だけに注目する研究が多かった。しかし社会的孤立とは言えないのに孤独感を抱いている人でも、記憶力の衰えが顕著に見られることが分かった」と、カンは言う。