生成AIに関する、楽観論でも悲観論でもない「真に問うべき質問」
ISSUES 2024: ARTIFICIAL INTELLIGENCE
レフィク・アナドルは機械学習を利用した没入型アート作品を次々と発表している(ドバイ) CEDRIC RIBEIRO/GETTY IMAGES FOR ART DUBAI
<現在と過去の関係は、生成AIの在り方と似ている。2023年にチェコで行われたプロジェクト『ドボルザーク・ドリームズ』とは何だったのか?本誌「ISSUES 2024」特集より>
人間は今、あまりに過大な影響を地球に与えているが、自らも深い変化を経験している。
これまで人間の労働によってのみ成し遂げられていた仕事が、マシンによってできる部分が増えてきた。創造性が求められるタスクも例外ではない。AI(人工知能)の幅広い応用は、遠い未来の可能性ではなく、現実となりつつあり、そのままこの世界にとどまることは確実だろう。
AIのポテンシャルを考えたとき、一方では、1990年代のような楽観論が存在する。当時、IBMの初期のAI「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオンを負かしたのをきっかけに、さまざまな領域におけるAIの応用が語られた。その一方で悲観論も存在した。AIが多くの人の生活の糧を奪い、人間の存在そのものも脅かすというのだ。
どちらも目新しい反応ではない。だがどちらの反応も、技術の進歩と人間の発展を切り離して考えるという間違いを犯している。楽観論者はAIが人間のために何をしてくれるかを夢中で語り、悲観論者はAIに何をされるかに不安を抱く。だが私たちが真に問うべきなのは、AIが人間と共に何を達成できるかだ。
この問いは、アートの世界にも、金融の世界にも関係する。
最新のメディアアートは実験と伝統の対話から生まれる。もともと人間の新しいものへの憧れと伝統への称賛は、相互依存関係にある。あるアート作品は、過去のトレンドを理解して初めて、その作品の斬新さを知ることができる。その意味では、過去の文化的遺産から完全に切り離されたアートは存在しない。
投資もハイブリッドな活動だ。この分野で成功するためには、真のイノベーションを見抜く能力が必要だ。そのためには過去をきちんと理解している必要がある。
現代に生き返るドボルザーク
こうした現在と過去の関係は、生成AIの在り方と似ている。AIは、人間の活動から生まれた膨大なデータを活用することで、汎用性に近いレベルの応用法を生み、幅広い文化や産業に及ぶイノベーションを後押しする。筆者ら2人が共同プロジェクト『ドボルザーク・ドリームズ』に取り組み始めた背景にも、AIに関するこうした共通理解がある。
このプロジェクトは、19世紀のチェコの作曲家アントニン・ドボルザークの楽曲とビジュアル資料、そしてレガシーを機械学習によってまとめ上げ、デジタルアートに昇華させるというものだ。
完成した作品は、2023年9月にチェコの首都プラハで開かれたドボルザーク・プラハ国際音楽祭で披露された。歴史的コンサートホール「ルドルフィヌム」前に大型モニターが設置され、集まった人々を魅了した。AIが新たな創造性をもたらすとともに、文化遺産を豊かにするツールになることが示された瞬間だ。