同僚が失敗するのが見られるなら、自分のボーナスが減ってもいいと考える人
maroke-iStock.
<悪意は社会を動かす。そして悪意は進化している。悪意の本質、そして正の側面とは何か? 心理学者が目からウロコの議論を展開する>
胸に手を当てて考えてみてほしい。次の質問のうち、皆さんはいくつ当てはまるだろう?
・同僚が失敗するのが見られるなら、自分のボーナスが減ってもかまわない。
・選挙で嫌いな候補者を落選させるためなら、たとえ対立候補のほうが能力が低く、当選したら社会に不利益をもたらすと思われても対立候補に投票する。
・会計のとき、わざともたもたして、後ろに並んでいる人を待たせる。
いずれも自分に不利益が及ぶにもかかわらず他者に害を与えようとする、悪意のある行動だ。
『悪意の科学――意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』(筆者訳、インターシフト)によると、この種の質問に「当てはまる」と回答した人は5~10%にのぼる。この数字は多いと感じるだろうか、少ないと感じるだろうか。
こうした人々が社会の趨勢を左右しかねないとしたらどうだろう? 実際、世論調査によると2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプに投票した人のうち53%がヒラリー・クリントンを勝たせたくないという理由でトランプに投票しており、なかにはトランプが大統領になったら心配だと答えた人までいたという。
ちょっとした嫌がらせから、ホロコーストに至るまで、悪意はさまざまな形で社会を動かしている。悪意の負の側面なら容易に思いつくはずだ。
では、正の側面はどうか。そもそも、嫌がらせをすれば相手にも自分にも不利益が及ぶにもかかわらず、人間に悪意を抱かせる遺伝子が進化の過程で淘汰されなかったのはなぜなのか?
心理学者である著者のサイモン・マッカーシー=ジョーンズは、心理学はもとより、脳科学や遺伝学、人類学、社会学、文学、映画などの幅広い知識を駆使し、ギリシア神話から自爆テロ、アメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱、ハチやヒアリ、現代の狩猟採集民族からヒトラー、ウォーレン・バフェット、禅僧にいたるまで、さまざまな例を客観的かつ多角的に分析しながら、目からウロコの議論を展開していく。
そして、「悪意は問題点の一部であると同時に解決策の一部でもある」と説き、悪意をコントロールして善を促す方法を提案している。