最新記事
WeChat

TikTokより「万能アプリ」WeChatを恐れるべき理由...中国共産党の監視・検閲システムの重要な一部

You Chat We Censor

2023年3月7日(火)12時30分
セス・カプラン(ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院教授)
WeChat

PHOTO ILLUSTRATION BY RAFAEL HENRIQUEーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

<機能満載の万能アプリ、ウィーチャットが中国国外でも共産党のプロパガンダと大衆監視に利用されている>

中国発の人気動画共有アプリTikTok(ティックトック)は、ダンス動画に夢中のアメリカのティーンエージャーに大人気。そればかりか、今では中国へのデータ漏洩を懸念する米当局からも注目されている。

だがアメリカの自由に対する深刻な脅威の源は別の中国アプリ──中国人と中国系アメリカ人の財布と会話にはるかに広範な影響力を持つウィーチャット(微信・WeChat)だ。これは中国の「万能アプリ」だが、文化や政治をめぐる自由な議論ができるかというと話は別だ。

ウィーチャットはいわばワッツアップとツイッターとフェイスブックとインスタグラムとペイパルを融合したアプリ。メッセージ、電話、ビデオ会議、ゲーム、ショッピング、決済、送金、フィード作成、ニュース閲覧など機能満載で中国や世界中の中国語話者に大人気だ。中国のIT企業でウィーチャットを運営する騰訊(テンセント)が2011年にリリース、月間アクティブユーザー数が10億人を超す中国最大のアプリである。

ウィーチャットは中国語を話すアメリカ人の間で広く利用され、留学生や中国系アメリカ人1世など在米華僑の重要な情報源となっている。そうしたユーザーを狙い、メディアがウィーチャット発で情報発信するケースが爆発的に増えている。

一度使い始めると、ユーザーにとってはウィーチャットのほうが、TikTokや同じようなアプリよりはるかに汎用性が高い。ただのアプリではなく、スマートフォンで中国語を使ってやりとりするための追加OS(基本ソフト)みたいなものだ。

一方で、ウィーチャットはその人気ゆえに中国共産党の監視・検閲システムの重要な一部となっている。党の指示に従い、ユーザーのアクティビティーは追跡・分析・検閲されて政府の手に渡り、中国の大衆監視ネットワークの中で重要な役割を果たしている。アルゴリズムは党の公式見解を推進するように調整され、見解にそぐわない情報は検索結果が上位に表示されないなど統制・検閲の対象になる。

党の見解に反する情報を投稿すれば、昨年の民主派デモの画像をシェアしたユーザーのようにアカウントを削除されたり、不適切な投稿を1件シェアしただけでも投獄されかねない。

当局が直接手出しできない中国国外でもウィーチャットの利用には危険が潜む。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中