最新記事

テクノロジー

テクノロジーの勝者が未来をつくる──ウクライナ戦争が浮き彫りにした技術競争の重要性

TECHNOLOGY

2023年2月17日(金)16時50分
エリック・シュミット(グーグル元CEO)
テクノロジー

MIRAGEC/GETTY IMAGES

<民主主義国がプラットフォームの主導権を握るための4つの政策課題とは>

超大国間の競争をめぐる昔ながらの教訓がよみがえった2022年は同時に、テクノロジーが競争の戦略的側面を変えつつあるという新たな教訓を授けてくれた。

独裁主義的な中国やロシアが国際法治、主権の尊重、民主主義的原則や市民の自由に挑戦状を突き付けていることに、もはや疑いはない。中ロが新技術を利用して国民を監視し、情報を操作し、データの流れを制御するなか、脅威は膨らんでいる。

地政学的緊張が高まる一方で、破壊的技術が公的・私的生活のあらゆる側面に踏み込んでいる。こうした現状が今後に持つ意味は明らかだ。戦略的競争の新たな領域は未来のテクノロジープラットフォームにある。

ロシアの侵攻に対し、ウクライナが(民主各国の大きな支援を得て)示す抵抗は、テクノロジーが地政学を変容させた具体例だ。

高度にネットワーク化され、テクノロジーに精通するウクライナは、軍事的に圧倒的優位とみられた強大な敵を前に、たちまち結束した。ソフトウエアの革新を活用し、オープンソーステクノロジーや分散型システムを最大限に利用して、今や史上初のデジタルネットワーク型戦争に勝利しつつある。

個人用携帯電話などを通じて、政府がクラウドベースのサービスで市民と直接つながり、革新的な若き政治家が才能あるテクノロジー部門と密接に協力し、数十年来の硬直化した官僚主義を一掃する──。ウクライナは、テクノロジーに対応した民主国家の将来像の一端も示している。ウクライナが戦時下でも革新を実現できたなら、ほかの民主主義国にも同じことが可能なはずだ。

ウクライナの変革に力を貸した民主主義世界の大小の企業は、重要な戦略的存在として浮上している。

これらの企業は早い時点で、ウクライナ政府の重要データなどをクラウドに移行して保護した。ロシアのサイバー攻撃への警告・対応を行い、ウクライナ人がインターネットに接続可能な状態を維持できるよう手助けして、ロシアの虚偽や戦争犯罪、軍事的失敗が知れ渡るようにした。こうした環境やアクセスが存在しなければ、戦争は全く別の展開になっていたかもしれない。

中国は世界各地の消費者向けに、ハードウエアとソフトウエア、サービスを一体化した統合ネットワークソリューションを輸出することに成功している。おかげで中国政府は影響圏を拡大し、技術競争のみならず地政学的競争でも、アメリカなどの民主主義国に対して優位に立っている。TikTok(ティックトック)の急激な台頭と、それが示唆する安全保障上の懸念が格好の例だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独クリスマス市襲撃、容疑者に反イスラム言動 難民対

ワールド

シリア暫定政府、国防相に元反体制派司令官を任命 外

ワールド

アングル:肥満症治療薬、他の疾患治療の契機に 米で

ビジネス

日鉄、ホワイトハウスが「不当な影響力」と米当局に書
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、何が起きているのか?...伝えておきたい2つのこと
  • 4
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 5
    「たったの10分間でもいい」ランニングをムリなく継続…
  • 6
    映画界に「究極のシナモンロール男」現る...お疲れモ…
  • 7
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    「私が主役!」と、他人を見下すような態度に批判殺…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「汚い観光地」はどこ?
  • 1
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 7
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命を…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 10
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 5
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 8
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 9
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 10
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中