超加工食品 脳の快感回路に作用する危険性を、欧米科学者が警告

KILLED BY FAKE FOOD

2022年1月31日(月)11時05分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

220201P18_KKS_02.jpg

フロリダ州のビーチでくつろぐ男女 JOE RAEDLE/GETTY IMAGES

問題は、従来のようにただ長持ちさせるためだけでなく、風味や見栄えの良さや食感などを追求して加工を施した多種多様な食品が爆発的に増えていること。こうした食品は、それを構成する化学物質のレベルまでいったん分解して、化学物質に手を加えてから、再び合成するという工程を経ている。

自然界には存在しない、いわばフランケンシュタインのような食品だ。従来の意味での加工とは処理のレベルが違うため、栄養科学は新しい呼び方を考え出した。「超加工食品」である。

多くの超加工食品は私たちの脳の「弱み」に付け込むように作られている。具体的には、快感を処理する回路に働き掛けるのだ。

麻薬やニコチンのように、多くの人がこうした食品に病みつきになるのはそのためだと、一部の専門家はみている。

アメリカ人がポテトチップスなどの加工食品を日常的に食べ始めたのは80年代からだが、これほどバラエティーに富んだ加工食品があふれるようになったのは、ここ数年のことだ。

ある調査によると、平均的なアメリカ人の摂取カロリーに占める加工食品の割合は2001~2002年には54%だったが、2017~2018年には57%と、じわじわ増えている。

「砂糖と脂肪を抽出、精製、加工して、濃度や純度を高める技術は非常に進歩していて、製造コストも下がっている」と、食物依存症を研究するミシガン大学の心理学者アシュレー・ギアハートは言う。

「(食品メーカーは)それらの成分を入れて、今まで私たちの脳が進化の過程で味わったものより、はるかに強烈な快感をもたらす食品を作っている」

こうした食品が人々の健康に与える影響は見過ごせない。

今ではアメリカの成人の半数が糖尿病か糖尿病予備群だ。成人の4人に3人は太りすぎで、成人の42%に当たる約1億人は米疾病対策センター(CDC)の基準で肥満に分類される。2~5歳の子供の10人に1人は既に肥満になっており、10代ではそれが5人に1人の割合になる。

新型コロナウイルス感染症では、肥満のアメリカ人は他のリスク要因がなくても入院率が3倍に上ったと推定されている。心臓病など食生活と関連する他の基礎疾患があれば、肥満の人の入院率は6倍、死亡率は12倍にも上る。

つまり、私たちの食べている物が私たちを死に追いやっているのだ。

いま必要なのは加工食品が健康に及ぼす影響を精査し、国家的な健康危機を招いた大手食品メーカーのマーケティング手法を人々に知らせること。

今はまだ食品業界の強力なロビー活動に対抗し得る勢力は米議会には育っていない。それでも何らかの規制を求める声は高まりつつある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中