最新記事

温暖化対策

二酸化炭素を埋めろ! CO2の「直接空気回収」、温暖化対策の切り札になるか

2021年2月9日(火)10時30分

アイスランド南西部の荒涼とした丘陵地帯で、労働者たちが巨大なファンを設置している。写真はグリーンピースの船から飛ばされたドローンが撮影した、北極海の流氷。2020年9月撮影(2021年 ロイター/Natalie Thomas)

アイスランド南西部の荒涼とした丘陵地帯で、労働者たちが巨大なファンを設置している。空気中から二酸化炭素を取り込み、地中深くに固形化して埋蔵するという、画期的ではあるがコストのかかる地球温暖化対策の1つである。

マイクロソフトなどの企業や、中国、米国、欧州連合の指導者らが、「ネットゼロ」という排出量削減目標の達成に向けた長期計画に取り組むなかで、2021年には、工学的な気候変動対策が注目と投資を集めつつある。

テスラを率いる起業家で大富豪のイーロン・マスク氏は1月、「最も優れた炭素回収テクノロジー」に1億ドル(約105億4000万円)の賞金を出すと発言した。

レイキャビク・エナジー傘下のカーブフィックスと提携してアイスランドで二酸化炭素回収拠点を構築しているスイス企業のクライムワークスは、ジョー・バイデン米大統領の言う「気候危機」を抑制するには、あらゆるテクノロジーによる対策が必要だと話している。

だが、すでに大気中に存在する二酸化炭素の「直接空気回収」(DAC)はコストがかかりすぎるという批判もある。特に、シンプルな排出量削減や既存森林の保護、新たな植林と比較すれば、その差は顕著だ。

クライムワークスのディレクターを務める共同創業者のヤン・ブルツバッハー氏は、「できるだけ植林を進め、森林を保護するべきだ。しかし、温暖化防止の手段をあれこれと選んでいられる段階ではない」と語る。

二酸化炭素を「埋める」

クライムワークスは現在、貨物コンテナほどの大きさの二酸化炭素回収ユニットを8基設置しつつある。現在年間50トンの二酸化炭素を回収・貯留しているアイスランドの既存プラントを拡張し、処理能力を年間4000トンに高める計画だ。

ファンによって取り込まれた空気から特殊なフィルターを使って二酸化炭素を分離する。カーブフィックスが二酸化炭素と水を混合して弱酸性の液体を作り、それを地下800─2000メートルの玄武岩地層に注入する。

カーブフィックスのエッダ・シフ・アラドッティルCEOは、二酸化炭素の95%は2年以内に固形化し岩石になる、と語る。

だが空気中の二酸化炭素の比率は約0.04%にすぎず、これを回収・貯留するプロセスは複雑でエネルギー集約性が高い。アイスランドでこの手法が成立するのは、主として豊かな地熱エネルギーが低コストで供給されているおかげである。

オンライン決済サービスの米ストライプは昨年、クライムワークスが空気から回収した二酸化炭素322トンに対して、1トンあたり775ドル支払うと述べた。これが回収コストを示唆する手掛りになる。

同様に、マイクロソフトは1月末、二酸化炭素1400トンを地下貯留するためにクライムワークスに投資すると発表した。ただしクライムワークスでは、1トンあたりの価格を明らかにしていない。

マイクロソフトで炭素除去問題担当マネジャーを務めるエリザベス・ウィルモット氏は、ある声明のなかで「クライムワークスの直接空気回収テクノロジーは、我々の炭素除去への取組みにおける重要な柱となるだろう」と述べている。

マイクロソフトは昨年、2030年までに「カーボン・ネガティブ」、つまり排出する以上の二酸化炭素を除去する状態になり、2050年までに「1975年の創業以来、直接、あるいは電力消費を通じて排出した二酸化炭素をすべて環境から除去する」ことを表明した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシア中銀、金利据え置き インフレ見通しに落ち

ワールド

水俣病被害者団体の発言妨げは不適切、岸田首相が環境

ワールド

中国の対ロシア輸出、4月は前年比10.8%減 前月

ビジネス

日鉄の今期事業利益は前年比25%減の見通し、「対策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 5

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 8

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中