ワクチン開発に成功したら......それをどう世界に運ぶ?
THE MISSION OF THE CENTURY
「一刻の猶予もない」と、このミッションに深く携わるIATAの貨物機担当責任者グリン・ヒューズは筆者に語った。「インフラが不十分な地域は、すぐにも対応に着手すべきだ。おそらく民間企業と軍が協力して進めなくてはならないだろう」
もう1つ深刻な問題がある。ワクチンの輸送に必要な航空貨物容量の不足だ。そう言われても、最近は多くの航空機が地上で待機している光景を目にすることが多いから、不思議に聞こえるかもしれない。
ここで考慮すべきなのは、貨物の空輸に使われるスペースには2種類あるということだ。1つは貨物専用機、もう1つは旅客機の機体下部にある貨物室。現在は旅客便が大幅に減便されているため、下部貨物室を使った空輸能力は通常の3分の1程度にまで減っている。
いま世界では、約1500機の旅客機が貨物輸送用に運航されている。しかしワクチンは特別な温度管理を施したコンテナに入れて下部貨物室で運ぶ必要があり、客席のスペースを使うわけにはいかない。十分な量のワクチン専用コンテナを造るのにも時間がかかる。
そうなるとフェデックスやUPS、DHLのような輸送業者にも出番が回ってくる。フェデックスでは低温輸送のための施設を世界で10カ所増やし、90カ所以上にしたという。
成功させれば将来に生きる
自力でのワクチン供給が望めない国は、低温輸送機能が備わったルートの最も近い場所から入手しようとするはずだ。例えば日本や東南アジア諸国は、仮にヨーロッパや北米から大量のワクチンを購入できる可能性があったとしても、まず周辺地域からの調達を考えるだろう。
中国はワクチンの「自給自足」の必要性を痛感している。しかし自国の空輸能力が極めて乏しいことが分かり、当局者は危機感を抱いた。
中国では新型コロナの感染が拡大した当初、緊急医療物資を国内で円滑に運ぶこともできず、外国で高まっていた需要にも応えられなかったためだ。この問題を解決するため、今「中国版フェデックス」とも呼ぶべき組織を設けようとしている。
中国政府は国内の航空輸送業者に対し、保有する貨物機を互いに協力して効率的に運用するよう指導している。だが最大手の順豊航空でも、60機しか保有していない(フェデックスは大型機だけで398機保有)。中国政府としては今後さらに貨物機を増やしつつ、フェデックスのやり方をまねて地上のサプライチェーンと緊密に連携させたい計画だ。