ワクチン開発に成功したら......それをどう世界に運ぶ?
THE MISSION OF THE CENTURY
航空各社だけでは対応しきれず、フェデックスなどの輸送業者にも出番が回ってきそうだ AVIATION-IMAGES.COM-UNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES
<ワクチンを地球上のすべての人に届けるには貨物機8000機分が必要──開発競争後の輸送という難題に備え、物流業界が計画する「世紀のミッション」とは>
いま世界中の航空輸送関連企業が、史上最大の空輸作戦を計画している。新型コロナウイルスのワクチンが完成した後、それをどうやって世界の隅々にまで届けるかというものだ。
並大抵の作業ではない。ワクチンを製造する企業から、実際に接種を行うクリニックに至るまで、全く新しいグローバルなサプライチェーンを築かなくてはならない。
国際航空運送協会(IATA)の試算では、地球上に住む約78億人全員に接種1回分のワクチンを届けるには、世界最大級の貨物機であるボーイング747Fで8000機分の積載量が必要だ。しかし、それだけの輸送態勢は世界に存在しない。
いま明らかになっているのは、この計画のハードルの高さだ。仮に来年の早い時期にワクチンが完成したとしても、世界中に届けるには最短で1年半かかる。
それにワクチンの輸送には、特別な注意が必要になる。最大の難題は温度管理だ。輸送日数がどんなに長くても、気候の変化が激しい地域を通過しても、ワクチンを運んでいる間は一定の保管温度を維持しなくてはならない。
温度管理の技術自体は既に確立されている。だが大量のワクチンを輸送するには、温度管理のインフラを大幅に拡充する必要がある。特別な設備のある倉庫を増やし、税関や国境を優先的に通過できるようにし、空と陸上の供給ラインを統合しなくてはならない。別の難題もある。
温度管理の面から言えば、新型コロナのワクチンのコールドチェーン(低温物流)には大きく2種類ある。マイナス70度の超低温で輸送するものと、2〜8度で運ぶものだ。これから築かれるワクチンの空輸態勢は、大きく差のある2種類の保管温度に対応できなくてはならない。
新型コロナのワクチンを各国が共同で購入し公平に分配するための国際的枠組み「COVAX」は、来年末までに20億回分のワクチン供給を目指している。その空輸態勢とインフラの整備には、180億ドル以上がかかるとみられる。
北米やヨーロッパ、ロシア、中国、日本、東南アジアなどの豊かな国は、この難題にも対応できるだろう。しかしアフリカや中南米、インド亜大陸の国々は、ゼロからインフラ整備を行わなくてはならない。IATAのアレクサンドル・ドジュニアック事務局長が言うように、この空輸計画はまさに「世紀のミッション」だ。