「日本人にアルゴリズムは通用しない」元インスタグラム・長瀬次英が語る日本のSNS
Photo: 遠藤 宏
<企業はSNS広告に大きな関心を寄せており、その流れはコロナ危機でさらに加速しそうだが、日本では注意が必要だ――。インスタグラムの初代日本事業責任者、日本ロレアルのCDOを歴任した注目のマーケターに聞く>
デジタルテクノロジーの急速な進展と普及によって、ビジネスのみならず産業構造、社会の在り方までもが大きく変わりつつある。この流れはコロナ危機によってさらに加速していくだろう。
消費者に向けた広告も、マスメディアから個別にターゲティングできるデジタルメディアへと移行しつつある。
特にSNSは、日本の利用者数は7975万人(普及率80%)と言われており、企業もSNS広告に対して大きな関心を寄せている。ユーザーのアクションから好みや関心を分析し、それをもとに広告を表示する一見無駄のないアルゴリズムが人気の秘密だ。
しかし、インスタグラムの初代日本事業責任者であり、日本ロレアル初のCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として同社のデジタル施策全般を牽引した注目のマーケター、長瀬次英氏は「日本人にアルゴリズムは通用しない」と断言する。
このたび、初の著書『マーケティング・ビッグバン――インフルエンスは「熱量」で起こす』(CCCメディアハウス)を出版し、その多彩で豊富な経験をもとに――そしてその経歴からは意外にも思える――新時代のマーケティング・コンセプトを打ち出した長瀬氏に、日本のSNSの特徴について話を聞いた。
なぜ日本人にアルゴリズムは通用しないのか。
まず、日本人のSNSの使い方が海外とはまったく違うのが原因ですね。
アメリカ人や中国人がSNSを使う大きな目的のひとつは「自分と同じ趣味の人を探すため」です。だから、見ず知らずの人でも興味を持てば積極的に話しかけるし、投稿やリアクションも能動的かつオープン。SNS上でも、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり表明します。
対して、日本人は他人の投稿を見たり、反応したりするのがメイン。それに義理人情という目に見えない社会的ルールがあって、それはリアルだけでなく、SNSにも反映されている。
興味がないものでも仲間が「いいね!」しているから......、そして中には、友だちの投稿すべてに「いいね!」を押している人すらいます。そんな、SNSでさえ本心を出すことが少ない日本人に対して、普段から素直に感情を表現するアメリカ人の作ったアルゴリズムが通用しないのは当然です。
確かに、友人や同僚の投稿に「いいね!」を押さなければならない圧力に悩んでSNSをやめた人、また、普段自分のタイムラインに流れてくる投稿や広告がまったく興味・関心を惹かないものばかりだという声は頻繁に聞く。