コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う
THE RACE FOR ANSWERS
中国やイタリアなど世界各地で治療の最前線に立つ医師たちは、ウイルスとの戦いに使えるものは何でも使うという姿勢で新たな治療法を探っている。今回のパンデミックは発生して日が浅く、こうした治療法に関するデータは十分には集まっていないが、効果を期待できるとする事例報告が上がっており、臨床試験に近いことも行われている。
最も効果が期待され、5月1日にFDAが新型コロナウイルス治療薬として緊急時の使用許可を出したのが、米製薬会社ギリアド・サイエンシズのエボラ出血熱治療薬レムデシビルだ。レムデシビルは、ウイルスが増殖するのに欠かせない酵素を阻害する。エボラウイルスに対する抗ウイルス活性効果が認められ、臨床試験で大きな副作用がないことも明らかになっている。
ヒト以外の霊長類を使った後続の研究では、レムデシビルがコロナウイルス、具体的にはMERS(中東呼吸器症候群)に効くことを示す結果が出ており、各国の衛生当局からは期待の声が上がっている。
レムデシビルの新型コロナウイルス感染者への臨床試験では、アメリカやヨーロッパ、中国など感染者が多い国で被験者を募り、1063人を対象に行われた。静脈内投与の効果を調べ、感染者の回復を早めることが確認されたという。
いわゆるプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤も新型コロナウイルス感染症の治療薬の候補に挙がっている。
これはエイズ危機のさなかに開発された抗ウイルス薬で、HIVが細胞内で増殖するために不可欠な役割を担うプロテアーゼに作用し、その働きを阻害する。それによりHIVの増殖を抑え、エイズの発症を防ぐ。その後、C型肝炎など他のウイルスに有効なプロテアーゼ阻害剤も開発された。
SARSなどのコロナウイルスも増殖にはプロテアーゼの一種を使う。だがコロナウイルスはHIVとはかなり異なるため、HIVに有効な薬が効くかどうかは不明で、引き続き研究が行われている。
抗マラリア薬のクロロキンと、それにヒドロキシ基が付いたヒドロキシクロロキンも、新型コロナウイルスへの有効性が期待されている。これらの薬は、ウイルスなど微生物が細胞内に取り込まれるプロセスである「エンドサイトーシス」を阻害する働きがある。この薬はエイズ禍の際にHIVの増殖を抑制できるか試され、その後に実験室で風邪やSARSなどのウイルスへの有効性が試され、ある程度の効果が認められた。
中国の公衆衛生当局は3月16日、北京、広東省、湖南省の10カ所の病院で100人超の患者にクロロキンを投与したところ、熱が下がった、CT検査で肺の影が減った、回復に要する期間が短縮されたなど有効性を示唆するケースがあったという。
治療の最前線で医師たちはさまざまな薬を試しており、今後も有望な治療薬の候補は増え続けるだろう。一例を挙げれば、中国当局は3月、日本の富士フイルム富山化学が開発したインフルエンザ治療薬「アビガン(一般名ファビピラビル)」が武漢と深圳の病院で行われた臨床試験で新型コロナウイルスへの有効性が認められたと発表した。
長期的にはワクチンが必須
ただし、有効性が認められた薬が実用化されるまでには多くの関門がある。まず大規模な臨床試験で効果と安全性が実証される必要があり、多くの新薬はこの段階でふるい落とされる。