最新記事

コロナ特効薬を探せ

コロナ特効薬&ワクチン、米中日欧で進む研究開発の最前線を追う

THE RACE FOR ANSWERS

2020年5月22日(金)17時15分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

magSR200521_2.jpg

顕微鏡で見た新型コロナウイルス(オレンジ色部分) NATIONAL INSTITUTE OF ALLERGY AND INFECTIOUS DISEASES-ROCKY MOUNTAIN LABORATORIES/NIH

リジェネロンは米食品医薬品局(FDA)や米保健福祉省に、審査を優先的に行う「ファストトラック」の対象にケブザラを加えるよう働き掛けている。入院患者を対象とした臨床試験は既に始まっており、いい結果が出れば、近くケブザラは新型コロナウイルス治療薬として承認されるかもしれない。同社では既に数万人の重症患者に使える量のケブザラを生産しているとヤンコプロスは言う。アメリカ以外の国々でのケブザラの販売権を持つ製薬大手サノフィは、同様の臨床試験をヨーロッパで始めている。

さらにリジェネロンは、コロナと戦う武器としてモノクローナル抗体にも注目している。モノクローナル抗体とは、特定のウイルスに取り付いて殺すことを目的に免疫細胞が設計・産出するタンパク質だ。

リジェネロンは、人体で使えるような抗体を産出するように遺伝子操作されたマウスを利用。新型コロナウイルスに感染させた遺伝子操作マウスからさまざまな抗体を取り出し、そこから効果がありそうなものを選び出した。抗体の大量生産には、大型の「バイオリアクター」と呼ばれる装置内で培養した細胞を使う予定だという。

リジェネロンのクリストス・キラツァウス副社長によれば、最も効果の高い抗体を割り出してから、アメリカ国内の患者に広く使える量の薬を供給するのに十分な細胞を作り出すまでに必要な時間は、約4カ月。医療現場からは、8月末くらいには新しい薬が使えるようになるのではと期待する声が上がっている。

体がウイルス感染を撃退するのを支援する治療法の開発も各国で進んでいる。例えばジョンズ・ホプキンス大学のアルトゥーロ・カサデバル教授(免疫学)らは、回復した元患者の血液から抗体を抽出する研究を進めている。感染に打ち勝った元患者の抗体を別の患者に投与しようというわけだ。

新薬開発までの時間稼ぎ策

実は100年以上前から、医師たちはこれに似た戦略でパンデミックと戦ってきた。1918〜20年の「スペイン風邪」のときもそうだった。違うのは、昔は存在しなかった機器や技術が使われている点だ。

カサデバルら研究チームは、自己免疫疾患の患者の血液から抗体を除去する治療に使われる機器などを用いて、新型コロナウイルスから回復した患者から抗体を抽出しようとしている。そして最も強力なものをいくつか選び、患者の治療や医療従事者の感染予防に活用したいという考えだ。必要な機器は既に医療現場で使われているものだから、アメリカ中、いや世界中の都市で同じ手法が使えるようになるかもしれない。

この手法は大量生産可能な新薬の開発には直接にはつながらないものの、新薬が登場するまでの時間稼ぎにはなるとカサデバルは言う。「実用化できれば、人工呼吸器で酸素を供給する以外の治療を患者に施すことができる」と、彼は言う。既に中国では血清を使った治療が行われており、アメリカでも広く行われる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新政権の政策、欧州インフレへ大きな影響見込まず=

ワールド

EU外相「ロシアは安保の存続に関わる脅威」、防衛費

ワールド

焦点:米のパリ協定再離脱、影響は前回2017年より

ビジネス

ECB、金利は年内2%接近へ 利下げ加速も=ギリシ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 8
    トランプ新政権はどうなる? 元側近スティーブ・バノ…
  • 9
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 10
    米アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが大型ロケット打ち…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中