最新記事

コロナ特効薬を探せ

自動車会社は人工呼吸器をどうやって量産しているのか

FROM CARS TO VENTILATORS

2020年5月19日(火)17時55分
クロエ・ハダバス

GMが初回出荷した人工呼吸器(インディアナ州ココモ) AJ MAST-GENERAL MORTERS-REUTERS

<コロナ禍により、フォードにGM、テスラまでもが医療機器製造に名乗りを上げた。製造工程から工場の改修資金まで厚い壁があったが......。本誌「コロナ特効薬を探せ」特集より>

このところ世界中の企業が、今回のコロナ禍により不足している物資や製品を補う方向に動いている。

20200526issue_cover200.jpgこの転換は、業種によってはそれほど難しくない。蒸留酒や香水のメーカーは、すぐに手指消毒剤の製造を開始できた。衣料品メーカーは、マスクや医療用防護服を造るのに適切な素材を調達すればよかった。

しかし人工呼吸器の場合は、そうはいかない。何千もの部品が必要だし、設計や製造の過程にミスがあれば人命に関わる。フォードやゼネラル・モーターズ(GM)、テスラなどの自動車メーカーが人工呼吸器の製造に名乗りを上げたが、道のりは平坦ではなかった。

何より製造工程が面倒だ。「普通なら製造開始まで半年から1年かかる」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・クスマノ教授(経営学)は言う。「たいていは部品や素材の入手がネックになる」

電子部品やプラスチック、ゴムなど、人工呼吸器の部品にはアメリカではあまり製造されていないものも多い。コロナ禍のせいでグローバルなサプライチェーンが当てにならない今は、国内で部品を調達するほうが速く、信頼性も高い。だが国内での部品の調達先は、機械工場か3Dプリンティングサービスくらいに限られる。その大半は、大量注文を受けられない小規模の事業者だ。

月に数千台の製品を製造する方法を見つけるのは容易ではないと、ミシガン大学のロバート・ボードリー教授(システム工学)は言う。「問題は、異なる部品を造るさまざまな業者による生産量を、軒並み増やさなければならない点だ」

GMがサプライチェーンの大半を所有していた頃なら、話は簡単だっただろう。「しかし、そんな時代は終わった」と、ボードリーは言う。

第2次大戦時に「経験済み」

クスマノは中国の工場が再開に向かっていることを心強く感じているが、すぐに外国の製造業者に依存するのは危険だと言う。世界的に緊急の需要がある医療物資の場合は、なおさらのことだ。

工場への製造設備の導入も大きな障害になる。フォードとGMは比較的小さな自動車部品を造る工場を改修して人工呼吸器を製造しているが、組立ラインを一新し、従業員への研修を新たに行う必要があった。

自動車メーカーは既存の医療機器メーカーと提携しているものの、そこには規模の壁が生まれる。GMと提携しているベンテック・ライフ・システムズ社の人工呼吸器の製造能力は、月に約200台。GMの目標は月1万台だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中