薬の飲み忘れを防ぐ、驚きの新送薬システムとは?
DRUGS ON A COIL FREE PATIENTS
薬の飲み忘れは回復の遅れ、薬剤耐性、さらには死につながる場合も SARINYAPINNGAM-iStock
<飲み忘れは世界的な問題で、病気治癒の障壁。そこでMIT研究チームは、1カ月胃の中にとどまり、適量の薬を放出し続けるデバイスを考案した。本誌特別編集ムック「世界の最新医療2020」より>
薬は飲まなければ効かない、というのは医療の世界の普遍的真理だが、患者の薬の服用を数カ月間にわたり支援する新しいデバイスの開発が進行中だ。
WHO(世界保健機関)の推定によれば、先進国では慢性疾患の患者の最大50%が薬の服用指示を守るのに苦労している。途上国では、この比率はさらに上がる。患者が医師の投薬計画に従わないという世界的な問題は、病気治癒の主要な障壁だ。専門家はこれを「ノンアドヒアランス(服薬不履行)」と呼ぶ。
これには多くの理由があり、例えば、患者が多忙で飲むのを忘れることもあれば、薬の値段が高くて買えない場合もある。一部の薬は副作用が強いため、患者が飲む回数を減らすケースもある。
いずれにせよ、ノンアドヒアランスは回復の遅れ、薬剤耐性、さらには死につながる場合もある。私はマサチューセッツ工科大学(MIT)の生物医学エンジニアとして、服用の頻度を減らすことで感染症の患者が容易に医師の指示を守れるようにする技術を開発している。
化学エンジニアのロバート・ランガーと、胃腸科専門医で生物医学エンジニアのジオバンニ・トラベルソの率いる私たちの研究チームが開発に注力しているのは、持続型の送薬システムだ。
数人の同僚は、患者が飲み込んだ後、胃に到達すると6本のアームを持つ星形の形状に変化するカプセルの開発に取り組んできた。そのサイズと形状、化学的・力学的特性により、この星形は数週間、胃の内部にとどまることができる。各アームはそれぞれ異なる薬を格納し、それをゆっくりと放出する。薬を全て放出した後、星形はばらばらに分解され、安全に腸を通過する。このカプセルはブタで試験済みだ。
この星形ステムは管理しやすいが、投薬可能な量に限界がある。患者が飲み込む方式なので、格納できる薬の量はせいぜい1グラム程度だ。
私たちのMITチームは最近、錠剤をらせん状のコイルに格納するシステムを考案した。この方式なら、10グラムの薬剤を1カ月間、保持・放出できる。既にブタで試験を行った。このシステムは、感染症の中でも最も致死性の高い結核の治療に必要な適量の抗生物質を放出可能だ。
このシステムでは、らせん状につながるワイヤに薬が数珠つなぎに連結され、ワイヤの端部は磁石付きのチューブで保護されている。ワイヤは弾力性が極めて高く、細長く伸びて食道を通過し、胃に到達して緊密なコイルを形成する。円筒形の錠剤は薬とシリコーンを混合して作られており、コーティング剤の薄膜で覆われている。