最新記事

投薬治療

薬の飲み忘れを防ぐ、驚きの新送薬システムとは?

DRUGS ON A COIL FREE PATIENTS

2020年4月9日(木)17時00分
マルビカ・バルマ(MIT研究員)

薬の飲み忘れは回復の遅れ、薬剤耐性、さらには死につながる場合も SARINYAPINNGAM-iStock

<飲み忘れは世界的な問題で、病気治癒の障壁。そこでMIT研究チームは、1カ月胃の中にとどまり、適量の薬を放出し続けるデバイスを考案した。本誌特別編集ムック「世界の最新医療2020」より>

薬は飲まなければ効かない、というのは医療の世界の普遍的真理だが、患者の薬の服用を数カ月間にわたり支援する新しいデバイスの開発が進行中だ。

202003NWmedicalMook-cover200.jpgWHO(世界保健機関)の推定によれば、先進国では慢性疾患の患者の最大50%が薬の服用指示を守るのに苦労している。途上国では、この比率はさらに上がる。患者が医師の投薬計画に従わないという世界的な問題は、病気治癒の主要な障壁だ。専門家はこれを「ノンアドヒアランス(服薬不履行)」と呼ぶ。

これには多くの理由があり、例えば、患者が多忙で飲むのを忘れることもあれば、薬の値段が高くて買えない場合もある。一部の薬は副作用が強いため、患者が飲む回数を減らすケースもある。

いずれにせよ、ノンアドヒアランスは回復の遅れ、薬剤耐性、さらには死につながる場合もある。私はマサチューセッツ工科大学(MIT)の生物医学エンジニアとして、服用の頻度を減らすことで感染症の患者が容易に医師の指示を守れるようにする技術を開発している。

化学エンジニアのロバート・ランガーと、胃腸科専門医で生物医学エンジニアのジオバンニ・トラベルソの率いる私たちの研究チームが開発に注力しているのは、持続型の送薬システムだ。

数人の同僚は、患者が飲み込んだ後、胃に到達すると6本のアームを持つ星形の形状に変化するカプセルの開発に取り組んできた。そのサイズと形状、化学的・力学的特性により、この星形は数週間、胃の内部にとどまることができる。各アームはそれぞれ異なる薬を格納し、それをゆっくりと放出する。薬を全て放出した後、星形はばらばらに分解され、安全に腸を通過する。このカプセルはブタで試験済みだ。

この星形ステムは管理しやすいが、投薬可能な量に限界がある。患者が飲み込む方式なので、格納できる薬の量はせいぜい1グラム程度だ。

私たちのMITチームは最近、錠剤をらせん状のコイルに格納するシステムを考案した。この方式なら、10グラムの薬剤を1カ月間、保持・放出できる。既にブタで試験を行った。このシステムは、感染症の中でも最も致死性の高い結核の治療に必要な適量の抗生物質を放出可能だ。

iryo200409_tube.png

本誌特別編集ムック「世界の最新医療2020」67ページより

このシステムでは、らせん状につながるワイヤに薬が数珠つなぎに連結され、ワイヤの端部は磁石付きのチューブで保護されている。ワイヤは弾力性が極めて高く、細長く伸びて食道を通過し、胃に到達して緊密なコイルを形成する。円筒形の錠剤は薬とシリコーンを混合して作られており、コーティング剤の薄膜で覆われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院、つなぎ予算案可決 政府機関閉鎖ぎりぎりで回

ワールド

プーチン氏「クルスク州のウクライナ兵の命を保証」、

ビジネス

米国株式市場=急反発、割安銘柄に買い 今週は関税政

ビジネス

NY外為市場=ユーロ上昇、ドイツ財政拡張の可能性高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ世代の採用を見送る会社が続出する理由
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴された陸上選手「私の苦痛にも配慮すべき」
  • 4
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 5
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ…
  • 6
    中国中部で5000年前の「初期の君主」の墓を発見...先…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「天然ガス」の産出量が多い国は…
  • 8
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 9
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 10
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中