最新記事

サイエンス

インフルエンザの季節、粘膜免疫の働きを高める乳酸菌の役割とは?

PR

2019年11月28日(木)16時20分
西山亨/TORU NISHIYAMA

空気が乾燥する冬が訪れると、インフルエンザをはじめとした感染症が流行する可能性が高まる。その感染リスクを低減させるのに役立つのが、目、鼻、口、腸管などの粘膜で異物の侵入を防ぐ「粘膜免疫」。なかでも「IgA(免疫グロブリンA)抗体」という生物防御物質が重要だという。さらに最近の研究で、特定のヨーグルトなどに含まれる乳酸菌に、このIgAを増やす作用があることが分かってきた。

唾液や鼻汁などの粘液に存在するIgAは人間になくてはならない抗体

ヒトの体は実にうまくできている。口や鼻からウイルスや細菌などの病原体が侵入しても、口腔から上咽頭にいたる気道の粘膜で、IgA(免疫グロブリンA)と呼ばれる抗体が病原体にくっついて無毒化し、胃や腸を経て体外に排出してくれる。IgMやIgGなどさまざまな種類があるが、体内で最も多く産生されるのがIgA。口腔内などの粘膜の表層で働き、唾液や鼻汁といった粘液にも含まれるこの抗体は、外敵を排除する「第一関門」として人体を守っている。

medicine191128ldb-2B.jpg

「IgAなどの粘膜免疫は、私たちがもともと備えている生体防御系をフルに動員する点で極めて効果的。私たちの体の中でIgAはとても大事なのです」と話すのは、徳島大学先端酵素学研究所で酵素に関する研究を行っている特任教授・名誉教授の木戸博氏。同氏によれば、現行の皮下注射型のインフルエンザワクチンには、感染そのものを予防する効果は期待できないという。皮下注射のワクチンは、既に体内に入り込んだウイルスを血液中で迎え撃つ「IgG抗体」を誘導するため、肺炎の併発などの重症化を予防する効果はある。だが、口や鼻の粘膜でウイルスの侵入を食い止めるIgAを誘導するわけではないため、感染自体を防ぐことはできないのだ。

medicine191128ldb-3B.jpg

「特定の乳酸菌を食べることで腸管免疫を活性化させ、ウイルス感染が抑制される」と語る木戸氏

現在、鼻に噴射したり口から飲むなどの形で粘膜免疫に直接働きかけるワクチンの開発が進んでいるが、それと並んで木戸氏が注目するのがLactobacillus bulgaricus OLL R-1(以下乳酸菌1073R-1株)で発酵したヨーグルト。タミフルのような抗インフルエンザ薬の「弱点」(副作用)を補いながら、免疫力を高める効果が期待できるという。

木戸氏によれば、抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖を抑えて症状を改善するが、体内でウイルスが十分に増えないために、同じウイルスへの再感染を防ぐ「獲得免疫」を得にくくなるというデメリットもある。そんなとき、乳酸菌R-1株で発酵したヨーグルトを食べていると腸管の粘膜で抗ウイルスIgAの産出が活性化したという研究もある。免疫が強化され、感染の予防と重症化予防の両方にもつながるのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中