「AIが人間の仕事を奪う」は嘘だった
オービタルは「オルタナティブ・データ」と呼ばれるデータを扱う急成長分野の多くの企業の1つ。市場調査会社タブ・グループによると、オルタナティブ・データ市場は16年に約2億ドル規模だったが、20年には2倍以上になると予測されている。
オルタナティブ・データは、政府統計や株価、企業の会計報告、消費者のクレジットカード使用履歴といった通常のデータとは違う。例えば携帯電話のシグナル、産業機器に搭載されているIoT(モノのインターネット)センサー、オンライン動画、ツイート、ソーシャルメディア、そして人工衛星の画像データなどだ。
未処理の生データが大量蓄積
こうした多分野にわたるデータをつなぎ合わせると、見えにくいトレンドが浮かび上がってくる。これを可能にするのがAIだ。オルタナティブ・データ業界にAIは必須だが、同時に人間の存在も必須だ。AIは人間の雇用を奪うという意見があるが、急成長しているこの業界を見れば、AIが誰も想像しなかったような規模の雇用を生み出せることが分かる。
AIは運転手や会計士、ファストフードの店員、工場労働者などの職を奪い、この世にはITを得意とするごく一部の金持ちと、政府が支給する生活費で食いつなぐ人間しかいなくなると、AIに懐疑的な人たちは言う。
実際、17年7月のオンラインビジネス誌クォーツによる読者1600人の調査では、回答者の90%が「今ある仕事の半分は自動化され、5年以内に消滅する」という予測に同意した。ただし失われるのは自分ではなく他人の職だと、91%が都合よく考えていた。
未来はそんなに暗くないという見方も増えている。減る仕事もあるが増える仕事のほうが多いということだ。例えば調査会社ガートナーによると、AIのせいで20年末までに180万人が失業する一方、230万の雇用が創出される。差し引き50万の雇用増だ。
コンサルティング会社キャップジェミニも、AI導入企業の83%で新規雇用ができたとしている。別のコンサル会社デロイトによるイギリスでの調査では、自動化によって低レベルの雇用80万が失われた一方、新規の雇用が350万も生まれ、しかも新規分の平均年収は1万3000ドルも高かった。
そうは言っても、AIの脅威のほうが見えやすい。自動運転のトラックが走りだせばトラック運転手は路頭に迷うだろう。既にAI型チャットボットは顧客サービスに一役買っている。デロイトは17年、10年以内に法務の分野で39%の業務が自動化されるとの調査結果も発表している。なるほど弁護士事務所の補助職や秘書職が憂き目を見ることは想像に難くない。
一方、プログラミングやチップ設計の能力を持たない人たちに、一体どんな雇用が用意されるのかを想像するのは難しい。だからこそ、オルタナティブ・データの活用から生まれつつある業界に注目すべきだ。
<ニューズウィーク日本版2月14日発売号(2018年2月20日号)は「AI新局面」特集。人類から仕事を奪うと恐れられてきた人工知能が創り出す新たな可能性と、それでも残る「暴走」の恐怖を取り上げた。この記事は特集からの抜粋。記事の完全版は本誌をお買い求めください>
【参考記事】AIが性差別・人種差別をするのはなぜか? どう防ぐか?
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