医師500人が支えるオンライン病気事典「MEDLEY」の狙い
記事の信頼性を担保するために医療従事者を巻き込む
最初のうち執筆者は私一人で、徹夜で記事を書いていました。でも一人でできることには限界があります。かといって、どんな書き手でもいいというわけではない。正確さを担保するには医師なり医療従事者なり専門知識を持つ人が携わる必要があります。
そこで、まず知り合いの医者を口説いて回りました。しかし、「どうして病気事典なんか作るの」「意味が分からない」と冷たくあしらわれてしまったんです。医師時代は基本的に患者さんが自分の話を聞いてくれるという職業でしたし、こんなにも人に相手にされないのは人生初の経験でしたね(笑)。
それでもめげずに打診を続けるうち、協力してくれる医師が少しずつ増えていきました。大学の後輩のすごく優秀な医師もその中の一人で、今では非常勤ながら深くコミットしてくれる存在になっています。そういう優秀な仲間を得ていくことで形ができていき、コンテンツが拡充されていくと、手伝いを申し出てくれる医師や医療従事者が雪だるま式に増えていきました。
記事を匿名化したこともサービスの成長につながっていると思います。権威あるベテランの医師にインタビューして、その方の名前も出して記事を作る方が立ち上がりとしては早いかもしれません。しかし、他の医師が書きづらくなったり最新の情報に更新しづらくなってしまうこともある。網羅、最新、中立というコンセプトを維持するには、匿名であることが1つの重要な要素であると考えました。
サービスの規模が大きくなるほど味方も増えていく
もう1つ、医師が参加したくなるような枠組み作りの一環として私たちが注力しているのが、世界の有名医療ジャーナルに掲載された論文を中心に医学の最先端を紹介する「MEDLEYニュース」です。
病気事典は「待ちのメディア」です。それをどうすれば攻めに転ずることができるかと考えたとき、発信が大事だと思ったんですね。ただ、病気のことを普通に発信しても興味を持たれづらい。そこで医療従事者にも、医療に興味のある一般読者層にもアピールできるものということで、目新しい医療情報をわかりやすく伝えるニュースを配信しようと思ったんです。
MEDLEYニュースではアカデミックなものばかりでなく、ちょっと変わった雑学的なネタも拾います。例えば、お腹に力を入れて吹き矢を拭いたらヘルニアになっちゃったとか(笑)。そういう変化球の話題も織り交ぜつつ、多いときは1日5本くらいのペースで記事をアップするようにしました。
世界の最新論文を元にした記事を次々出してきて、しかもどれも正確だということで、医療従事者の多くは度肝を抜かれたはず。今では根強いファンがついています。MEDLEYニュースで我々の覚悟を示すことができたし、ブランディングにも役立ちました。結果として外部の協力者の輪がさらに広がっていったんです。
最初の30人くらいまでは友人でしたけど、今は500人以上の医師が協力してくれています。その数も日を追うごとに増えていて、サービスの規模が大きくなるほど味方も増えていく感じですね。裏を返せば、日本の医療に対する危機感をそれだけ多くの医療従事者が抱えているということなんでしょう。
【参考記事】ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める