最新記事

試乗リポート

自動運転でも手を離せないテスラの大いなる矛盾

モデルSに搭載されたオートパイロット機能は夢の無人自動車への懸け橋になれるのか?

2016年1月20日(水)16時00分
ウィル・オリマス(スレート誌記者)

マスクの野心 オランダの工場で欧州向けの出荷チェックを受けるテスラ・モデルS Jasper Juinen-Bloomberg/GETTY IMAGES

 マンハッタンのウエストサイド・ハイウエーは車線の幅が狭く、カーブも多い。それでも私は制限速度いっぱいの時速55マイル(約90キロ)で、テスラの電気自動車「モデルS」を走らせる。けっこう道が混んでいるから、ハンドルを握る手に自然と力が籠もる。

 そこで私は青いボタンを押し、アクセルから足を外し、ハンドルから手を離した。そう、ここから先は自動走行だ。
 
 高速道路を走るのはヒヤヒヤものだが、この車は冷静さを失わない。安全な車間距離を取り、ブレーキとアクセルを巧みに操作して定速走行を維持する。車体側面のセンサーが左右を走る車の動きを監視し、こちらの車線に侵入してきた車をよけたと思った矢先、ちゃんとハンドルを握れと警告してきた。

 そうなのだ。たとえ自動走行中でも、モデルSの運転席では常にハンドルを握っていなければいけないのだった。手を離した途端に警告音が鳴り始め、ダッシュボードに「ハンドルを握ってください」というメッセージが表示される。なぜか。その理由はやがて明らかになった。恐ろしいほど明らかに......。

 車の流れが少しスムーズになったところで、私はオートパイロットと呼ばれる半自動運転モードをまた使ってみた。そして「自動車線変更」の機能を試すため、右折のウインカーを出した。前を走る車が少し速度を落としたタイミングで、モデルSはさっと右の車線に移り......そのまま右へと突き進んで行くではないか。

 このままだと高速道路の右端のコンクリート壁に衝突だ。慌ててハンドルを切り、寸前で難を逃れる。フーッ。

 考えてみれば、ハンドルを切る必要はなかったのだろう。オートパイロットでは路面に引かれたラインを認識して車線を維持するのだが、私が右へ出ようとした辺りにはラインがなく、あるのは壁だけ。だから車は突っ走った。

 助手席にいたテスラの広報担当は、もう少し待てば衝突回避センサーが反応してコースを修正したでしょうと、余裕の表情で言った。ただしソフトウエアが未熟であることも認めた。

 オートパイロット機能は人間に代わるものではないと、テスラが強調するのはこのためだ。目下、グーグルやアウディ、トヨタなどの自動運転車の試験走行が注目を集めているが、最も楽観的な専門家でさえ、実用化は何年か先だと言う。

アップされる不安な映像

 とりわけ慎重なのはグーグルで、完全に安全と証明されるまでは市場に出さないと言う。何しろグーグルのテスト車両にはハンドルもないのだ。

 テスラのイーロン・マスクCEOも、自動運転車の登場は先の話だと考える。ただし技術の熟成を待つよりも、少しずつでも早く試してみたいようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中