自動運転でも手を離せないテスラの大いなる矛盾
テスラは既存のテクノロジーの可能性を限界まで押し広げながら、他の主要メーカーが目指していない「自動駐車」や「自動車線変更」の機能を追求している。人間のドライバーというセーフティーネットがあるからこそ、こうした機能を実地にテストできる(そして適法と見なされる)わけだ。
とはいえ、人間が逆に障害になるとしたら? テスラがソフトウエアにオートパイロット機能を追加するや否や、YouTubeにはモデルSのドライバーがチャレンジする映像がアップされ始めた。「見てよ、ママ、手離し運転だ!」と。
突然、道路の壁や対向車線へ進路を変え、運転手が直前で衝突を回避する映像もあった。あるビデオのタイトルは、「テスラのオートパイロットに殺されかけた!」。最も不安をかき立てたのは、後部座席に座ったままのオランダ人ドライバーが自分の姿を撮影したビデオだ。
先の業績発表で、マスクはオートパイロット機能のエラー報告を「驚くようなことではない」とし、現在のソフトウエアは「ベータ版」であり、いずれもっと賢くなると説明した。一方、一部のドライバーが「常にハンドルに手を置く」というテスラの要求を無視している映像には不快感を示し、「これはよろしくない」と苦々しい表情で語ったものだ。
未来世界が垣間見える
テスラのオートパイロット機能はハンドルから手を離せば警告を発し、運転者がシートベルトを外したり、座席を離れたりすると減速し停車するよう設計されている。例のオランダ人がどうやって後部座席に移ったかは不明だが、そうした無謀行為を防ぐための対応を急ぐと、マスクは語っている。
たぶん、それは正しい対応なのだろう。例えばこの機能を特定の道路だけでしか使えないようにするのも1つの手だ。
そうすれば大手自動車メーカーの不安が少しは払拭されるかもしれない。彼らはテスラのオートパイロット機能の派手な売り込みがユーザーの不安と反発をかき立て、真の無人運転車の実現の妨げになる事態を心配している。
報道によると、15年10月に開かれた東京モーターショーの会場で、トヨタの豊田章男社長は「自動運転車がらみで大事故が起こったら、テクノロジーの進歩はすぐさま止まるだろう」と記者団に語っている。
もっとも、オートパイロット機能には解決できない基本的な矛盾がある。テスラによると、この機能は安全性と利便性の向上を目的としている。しかし、それなら自動車線変更といった派手だがまだ不安定な機能を試さず、既に開発されている「車間距離を保ちながら定速走行する」機能を充実させればいいのではないだろうか。