発表!「ニューズウィーク日本版SDGsアワード 2023」受賞企業
受賞者に授与されたトロフィー。「中川運河学習室」に参加する株式会社近藤印刷、アルプススチール株式会社という名古屋の2社の協力を得て、工場で使われなくなった金型を再利用して制作した特別な「アップサイクル」トロフィーだ。デザインは、グラフィックデザイナーとして名高い京都芸術大学の久保雅由准教授による PHOTOGRAPH BY HIROSHI ENDO
「ニューズウィーク日本版SDGsアワード2023」では、プロジェクトに参画したパートナー企業63社の77事例を取り上げた。
多くの取り組みは、SDGsの17の目標のうち複数の目標にまたがるものだが、編集部として注目するポイントを元に、それらを「環境部門」「社会部門」「経済部門」そして、事例の数が多かった「脱炭素部門」と「地域課題部門」を設け、これら5部門に分類。パートナー企業にも、他社の事例記事を読んでもらい、優れた取り組みに投票をしてもらった。
その上で、編集部と外部審査員である慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授がグローバルな視点、専門家の視点で精査し、アワードの受賞者を選定した。5部門賞の中から最優秀賞も選出した。
3月15日の授賞式で発表したアワード受賞者と、受賞5企業の事例をここに紹介する。
株式会社 山翠舎 【経済部門賞】【最優秀賞】
■廃棄されるはずの古民家の木材で、循環型経済を推進
昨今、地方の衰退が進んでおり、空き家や空き店舗の増加が社会問題となっている。特に空き家となった古民家は、再利用に高度な技術とコストを要するため、大半が取り壊されているのが現状だ。
そこで長野県の建築会社である山翠舎は、従来は価値がなかった古民家の木材(柱、梁、桁)を「古木」というアップサイクル商品に転換。その古木を利活用し、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)を推進している。
古木を活用した店舗内装設計や施工のほか、古民家の移築工事、古木を使った家具の販売といった事業を展開。古民家の木材が焼却処分されることがなくなり、二酸化炭素(CO2)の排出も抑制できる。
2023年1月にはパリの展示会に出展。海外から古木ベンチを受注するなど、その魅力は世界にも広まりつつある。
【選考委員会講評より】
古民家をたとえ住宅としては活用できなくても、使えるところを使おうという姿勢に日本ならではの「もったいない」精神が生きている。制作する物がおしゃれなのもいいし、「築100年以上の新潟の古民家から取った古木で制作した」などといったストーリー性もあり、秀でた取り組みと言える。5部門賞の中でも、日本の良さを生かし、グローバルな観点からも興味深い事例である点を特に評価し、最優秀賞に選んだ。
株式会社 wash-plus 【環境部門賞】
■水質汚染を減らす「洗剤不要」の洗濯機
SDGsの6番目の目標は「安全な水とトイレを世界中に」。水資源は地球規模の課題の1つだ。降水量が多く、上下水道のインフラが整備された日本では無関係に思う人もいるかもしれないが、目標6の中には水質汚染の削減、水の利用効率改善も含まれる。
この問題に洗濯技術のイノベーションで取り組んでいるのが、コインランドリー事業を展開するwash-plus。同社は99.9%が水成分から成るアルカリイオン電解水を使用し、業界初となる洗剤を使わないコインランドリーを2013年に実現した。
合成化学物質を使用しないため排水汚染が少なく、環境負荷を抑えられる。十分な洗浄力があり、無色・無臭・無刺激。アトピー性皮膚炎など肌が弱い人も比較的安心して利用できるという。さらに現在、排水レス洗濯機の実証実験を行っている。
【選考委員会講評より】
水の使用量を減らすことができ、その排水に化学物質が含まれていない。こうした取り組みが広がることで、SDGsの目標達成への動きが加速するだろう。
株式会社 ベネッセスタイルケア 【社会部門賞】
■「マジ神AI」で介護業界の課題解決を
介護事業を展開するベネッセスタイルケアが開発した「マジ神AI」は、介護士を支援するAIソリューション。
高齢者の小さな異変に気付く予兆検知や、認知症に伴う行動・心理症状の要因分析といった、同社が「マジ神」と呼ぶプロフェッショナル介護人材の思考をAIに学習させて業務を支援することで、経験の浅い介護士でも質の高いサービスを提供できるようになるという。
2040年には約69万人の職員不足が予想されるなど、介護業界は人材不足が深刻だ。一律的なDX化が難しい業界にあって、「マジ神AI」には人材育成に加えて、質の高いサービス提供による施設入居者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)向上に寄与する狙いがある。
【選考委員会講評より】
サステナブルな世の中にしていくためのAI活用法を示す、非常に好ましい事例。世界的に見れば介護はまだ先進国固有の課題という側面があるものの、「課題先進国」として意義深い取り組みだろう。個人のウェルビーイングに注目している点も特徴的だ。
株式会社 星野リゾート 【脱炭素部門賞】
■100年前に始めたエネルギー自給自足
長野県の軽井沢にあるリゾートホテル「星のや軽井沢」では、およそ100年前から消費するエネルギーの一部を自給自足するなど、環境に配慮した経営を推進してきた。同ホテルを運営する星野リゾートの歴史は、この軽井沢の地から始まった。
主なエネルギー源として、施設内を流れる川の水を利用した水力発電と、かけ流し温泉の排湯熱、地下から回収した地中熱を活用。厨房で使用するプロパンガスと自動車のガソリンを除き、消費エネルギーの約70%を敷地内で生み出すことに成功しているという。
さらに、2022年には宿泊客のためのEV充電設備を設置し、23年からは送迎用のEVも導入した。
【選考委員会講評より】
消費エネルギーを自前で作り、回すというのはなかなかできることではないし、長期間続けている点も評価できる。昔のものを継承しつつ、将来につなげていこうとする姿勢こそが持続可能性でもある。エコツーリズムの実施も含め、総合力で素晴らしい。
sankara hotel&spa 屋久島 【地域課題部門賞】
■世界遺産の自然保護はホテル宿泊客と共に
世界遺産でのオーバーツーリズムが問題となっているが、屋久島も例外ではない。そんななか、リゾートホテルの「sankara hotel&spa 屋久島」は独自に基金を設立し、島の自然保護活動に活用している。
例えば、登山客の増加により損傷した登山道の整備。その土地の自然環境に合わせた「近自然工法」という手法を用いて修復されているが、その施工に資金提供し、施工技術向上を目的とした講習会にはホテルのスタッフも多数参加したという。
ほかにも絶滅危惧種であるウミガメの産卵を保護するプロジェクトなどの活動実績があるが、特徴的なのはホテルの宿泊者に1回の滞在当たり500円を支払ってもらい、基金を運営していること。宿泊客の自然保護活動への貢献もはっきりしたものになる。
【選考委員会講評より】
観光で楽しむ分、対価を払ってもらいましょう、それを自然保護に活用しましょう、という仕組みを作っているのが素晴らしい。そうしなければ屋久島の自然保護は持続可能にならないだろう。
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