世界で注目集める「数十年で完成する小さな森」、考案したのは日本の植物学者だった
驚きの「小さな森」成長スピード。英環境団体アースウォッチ・ヨーロッパのYouTube動画「Tiny Forest - see how quickly they grow!」より
<広さはテニスコート1面分ほど。通常なら数百年かかる「極相」の形成を驚異的に速められる植樹方法――「宮脇方式」が世界各地に広がっている>
英ロンドン南東部の緑豊かなケイター公園で今年6月、131本の木が違法伐採される事件が起きた。取り返しのつかない行為に住民は憤慨し、悲しんでいたが、その思いをバネに官民連携のユニークな復旧策が立ち上がった。
それが伐採現場近くのテニスコート1面分ほどの土地に約600本の木を植え、「小さな森」(tiny forest)を作るプロジェクトだ。
環境団体のアースウォッチ・ヨーロッパ、公園の友の会、ブロムリー・ロンドン特別区(公園がある行政区)、地元議員などが中心となり、クラウドファンディングを実施。2023年11月14日までの42日間で243人から3万1927ポンド(約600万円)を集め、目標額を達成した。植樹は2024年2月24日に行われる予定だ。
植樹を主導するのは、アースウォッチ・ヨーロッパ。2020年に英オックスフォードシャーに初めて小さな森を作ってから、数年で200近くの「森」作りを市民や自治体などと協働してきた。2030年までに森を500に増やす目標を立てている。
その森とは、整然と画一的な樹種が並ぶ森ではなく、小さいながらも20種ほどの高木、低木・灌木が入り乱れる野生味あふれる森である。3年ほどで500種を超える動植物を呼び込めるという。最終形態となる極相林の形成には数百年かかるのが通説だが、同団体が採用している植樹法なら、そのスピードを10倍近く縮められるそうだ。
遷移を短縮する方法とは
生物の教科書に載っていた「クレメンツの遷移説」を覚えているだろうか。裸地から草原や低木林、落葉樹林などを経て安定した「極相」(クライマックス)の常緑樹林が形成されるまでには数百年かかると教わった。
実はこの通説を覆す方法を1970年代に発案したのは、日本の植物生態学者、故・宮脇昭氏だ。宮脇氏はクレメンツの説で膨大な時間を要するのは土壌形成であることに着目し、遷移を早める方法、通称「宮脇方式」を編み出した。
その方法とは、有機質豊富で通気性の良い表層土を用意し、土地本来の植生に合う樹種の苗を近距離に混植・密植させていくというものだ。森の機能をある程度整えた環境で木々の「競争」を促すことで、森は一気に極相に達するのだという。
宮脇氏は人間活動の影響が停止した際、その土地がどんな植物に適した自然環境を有しているかを見極めるドイツ発祥の「潜在自然植生」という理論を研究していた。
日本の津々浦々の植生を調べ上げ、寺社に残る照葉樹林が土地本来の植生を体現した森であることを確信する一方、国土の大部分がそうでないスギやマツ、ヒノキなどの画一的な人工林に覆われていることを危惧していた。
「潜在自然植生」理論に沿った森は、根が直根で深く、大地震や津波の災禍を生き抜くたくましさがある。自然災害の多い日本では土地本来の植生に沿った森をもっと増やすべきだと主張し、企業や国などと協働しながら、2021年に93歳で亡くなるまで4000万本以上の植樹に携わった。
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