最新記事

心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた禅僧が教える悩まないコツ

2024年4月23日(火)16時09分
枡野 俊明 (曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー)*PRESIDENT Onlineからの転載

【人の世は「グレーゾーン」ばかり】

私たちはものごとに接するとき、「よい、悪い」「成功、失敗」「勝ち、負け」「味方、敵」「美、醜」といった二元論の価値判断を行いがちです。

しかし現実は、黒か白か、といったようにはっきり分けられるものではありません。

「よい、悪い」であれば、見方によってはよいけれども、別の見方をすれば悪いものもたくさんあるでしょう。「成功、失敗」であれば、成功とも失敗ともいえない結果はいくらでもあるはずです。

「勝ち、負け」にしても、勝ちか負けかは一見はっきりしているように見えますが、そんなことはありません。たとえば、戦争に勝ったとしても、たくさんの犠牲を払って戦争を起こした行為自体が人間として負けているという考え方もできます。

二元論において相反して向かい合っている価値観の間には、常にグレーゾーンが広がっています。

【「よいも悪いも、一切忘れなさい」】

私たちが足を着けている現実世界は、グレーゾーンだらけです。しかし、多くの人は、そのことを忘れて、成功や勝つこと、あるいは美しさばかりを求めて生きています。

そうした執着は、大事なものを見失わせます。

成功への過度のこだわりは、失敗から大きなことを学ぶ謙虚さを失わせかねません。自らの美への強いこだわりは、老いを否定的なものとしてとらえ、不幸な老年期をもたらしたりもするでしょう。

禅は、「両忘りょうぼう」といって、「よいも悪いも、好きも嫌いも一切忘れなさい」と戒めます。

【あるがままをそのまま受け入れる】

AかBかという二択でどちらかを、よい悪い、好き嫌いで選ぶのは、やめましょう。人間の頭が勝手に生み出す"レッテル"を忘れて、あるがままを受け入れなさい、と教えるのです。

黒か白かというものさしを脇に置けば、黒と白がさまざまな具合で混じった状態が見えてくるはずです。

しかも、黒と白の混ざり方は、時間の推移、環境や条件の変化によって刻々と変わっていきます。たとえば、雲が変わっていくような変化を何の価値判断も行わず眺めてください。それが「無常」ということです。

真実の世界は、二元論を超えたところにあります。心で素直に無常の変化を感じると、ひとつの価値観だけに囚われていたときには見えなかったものが見えてきます。

そのことは、固定した考え方から自由になるきっかけを与えてくれるはずです。

newsweekjp_20240423050010.jpg


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中