「盗んだバイクで走り出すって......あり得ない」 Z世代に30年昔の尾崎豊の声は届かないのか?
アイドルや二次元キャラのほうが安心できる
「回避的な」人は、以下のような苦悩を抱えていることが多いといえます。
・世の中では愛や絆の素晴しさを謳(うた)っているけど、自分としてはピンときておらず、どこか冷ややかになってしまう
・他人に好意を向けられると、気持ち悪いと感じてしまう。だから、アイドルや二次元のキャラクターなどを好きでいるほうがよっぽど安心する
・他人と親密な関係を築くことが、手放しで素晴らしいことだとはどうしても思えず、恋愛や結婚といった関係にコミットすることに抵抗感を感じてしまう
・パートナーがいても、「愛情」がないわけではないが、相手が自分に向けて来る気持ちが「重い」と思ってしまい、そこまでの気持ちを返せないと感じてしまう
・他人と関わることの重圧に耐えられなくなったら、「人間関係をリセットしたい」という衝動に駆られてしまう
他人を頼ったり深い関係を築いたりすることに対して、否定的にみてしまうため、「自分は人間としてどこか欠陥があるのではないか」という疑念を持ってしまう人も少なくありません。こうした人たちに詳しく話を聞いてみると、対人関係、とりわけ親子やパートナーといった親密な関係性の中での傷つき体験があることがとても多いのです。
そのような経験の積み重ねにより、他人のことを基本的には脅威(きょうい)だと考えていて、なるべく他人との距離をコントロールしたいのです。つまり、「防衛的に」あらゆる人間関係に回避的になっているわけです。
人間関係を避け、周囲に期待しないことで自分を守る
そして、この「回避性」は、背側迷走神経による防衛反応に深く関わっているといわれています。たとえばネグレクトのような、親密な情動的な交流が得られにくい養育環境においては、腹側迷走神経系の機能をうまく発達させることができず、背側迷走神経系による「引きこもり反応」に偏った発達を遂(と)げやすい、という指摘があります。
こうした人は、気質的には無力感を感じやすく、感情表現が少なく「ローテンション」であり、うつ病などに苦しむリスクが高くなりやすいのです。
社会や人間関係に対して、安全・安心の感覚を抱くことができず、対人関係に悲観的になり、回避的にならざるをえない。他人にも社会にも、そして自分に対しても、執着をせず、異様なまでに「あきらめがいい」。周囲に期待しないので、振り回されもしない。そのかわりに、未来に希望も見いだしにくい。
このようなスタンスも、神経学的な背景をもった氷のモードの防衛のあらわれ方の一つであり、いまの時代を象徴する「痛み」になっているのではないかと考えられます。
鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)
内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。