最新記事
日本社会

「盗んだバイクで走り出すって......あり得ない」  Z世代に30年昔の尾崎豊の声は届かないのか?

2023年9月27日(水)17時50分
鈴木裕介(内科医・心療内科医・産業医) *PRESIDENT Onlineからの転載

アイドルや二次元キャラのほうが安心できる

「回避的な」人は、以下のような苦悩を抱えていることが多いといえます。


・世の中では愛や絆の素晴しさを謳(うた)っているけど、自分としてはピンときておらず、どこか冷ややかになってしまう
・他人に好意を向けられると、気持ち悪いと感じてしまう。だから、アイドルや二次元のキャラクターなどを好きでいるほうがよっぽど安心する
・他人と親密な関係を築くことが、手放しで素晴らしいことだとはどうしても思えず、恋愛や結婚といった関係にコミットすることに抵抗感を感じてしまう
・パートナーがいても、「愛情」がないわけではないが、相手が自分に向けて来る気持ちが「重い」と思ってしまい、そこまでの気持ちを返せないと感じてしまう
・他人と関わることの重圧に耐えられなくなったら、「人間関係をリセットしたい」という衝動に駆られてしまう

他人を頼ったり深い関係を築いたりすることに対して、否定的にみてしまうため、「自分は人間としてどこか欠陥があるのではないか」という疑念を持ってしまう人も少なくありません。こうした人たちに詳しく話を聞いてみると、対人関係、とりわけ親子やパートナーといった親密な関係性の中での傷つき体験があることがとても多いのです。

そのような経験の積み重ねにより、他人のことを基本的には脅威(きょうい)だと考えていて、なるべく他人との距離をコントロールしたいのです。つまり、「防衛的に」あらゆる人間関係に回避的になっているわけです。

人間関係を避け、周囲に期待しないことで自分を守る

books20230927.pngそして、この「回避性」は、背側迷走神経による防衛反応に深く関わっているといわれています。たとえばネグレクトのような、親密な情動的な交流が得られにくい養育環境においては、腹側迷走神経系の機能をうまく発達させることができず、背側迷走神経系による「引きこもり反応」に偏った発達を遂(と)げやすい、という指摘があります。

こうした人は、気質的には無力感を感じやすく、感情表現が少なく「ローテンション」であり、うつ病などに苦しむリスクが高くなりやすいのです。

社会や人間関係に対して、安全・安心の感覚を抱くことができず、対人関係に悲観的になり、回避的にならざるをえない。他人にも社会にも、そして自分に対しても、執着をせず、異様なまでに「あきらめがいい」。周囲に期待しないので、振り回されもしない。そのかわりに、未来に希望も見いだしにくい。

このようなスタンスも、神経学的な背景をもった氷のモードの防衛のあらわれ方の一つであり、いまの時代を象徴する「痛み」になっているのではないかと考えられます。

鈴木裕介(すずき・ゆうすけ)

内科医・心療内科医・産業医
2008年高知大学卒。内科医として高知県内の病院に勤務後、一般社団法人高知医療再生機構にて医療広報や若手医療職のメンタルヘルス支援などに従事。2015年よりハイズ株式会社に参画、コンサルタントとして経営視点から医療現場の環境改善に従事。2018年、「セーブポイント(安心の拠点)」をコンセプトとした秋葉原内科saveクリニックを高知時代の仲間と共に開業、院長に就任。著書に『我慢して生きるほど人生は長くない』(アスコム)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中