最新記事
日本社会

「盗んだバイクで走り出すって......あり得ない」  Z世代に30年昔の尾崎豊の声は届かないのか?

2023年9月27日(水)17時50分
鈴木裕介(内科医・心療内科医・産業医) *PRESIDENT Onlineからの転載

尾崎豊にピンとこないZ世代

尾崎豊というシンガーソングライターがいました。

楽曲は大人や社会へのいらだちや、支配に対する抵抗をテーマにしたものが多かったのですが、その一方で「I LOVE YOU」など愛や夢にまっすぐに生きていたいというピュアな願いとその難しさを歌った楽曲も多く、ティーンエイジャーを中心に大きな共感を集めていました。

1970~80年代は、校内暴力や非行、暴走族といった、炎のモードの防衛の時代だったのではないかと思います。


「盗んだバイクで走り出す」(『15の夜』)
「行儀よくまじめなんてクソくらえと思った 夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」(『卒業』)

私もたまにカラオケで歌ったりするのですが、こういうまっすぐな反抗を歌った歌詞というのは、いまの若い世代にはピンときていないようで、「なんでそんなことするの?」という感覚です。

時代が変わり、行き場のないエネルギーを発散させるかのようなアクティブな非行・暴力・攻撃性は鳴りを潜めていき、いじめは陰湿化・オンライン化しています。直接的にぶつかり合うような摩擦が減っていくこで、対人関係はより過敏になり、傷つきを恐れるようになります。

闘ってもムダだし、怖いし、傷つきたくもないので、反抗せずに固まる・引きこもる傾向になっていく、というのは自然の流れのように思います。

reuter_20230926_175916.jpg
出典=『心療内科医が教える本当の休み方

人と人が信頼関係を築くのが難しくなっている

さらにここ数年、私たちは東日本大震災や原発事故、パンデミックなど、自分たちの力ではどうにもならない理不尽な出来事、無力感を覚える出来事を数多く経験しています。

もしかすると、昔は、大人や社会と正面からぶつかることで何かが変わっていくかもしれないという、ある意味での純粋さや希望があったのかもしれません。

そうした希望がなくなり、ぶつかってもムダである、という「あきらめ」の蔓延(まんえん)が、背側的な氷のモードの反応を増加させているのではないか。この「あきらめ」「無力感」というのもキーワードになっていると思います。

また、人と人が信頼関係を築くのが難しくなっていることも、氷のモードに入ってしまう人を増やしているといえるかもしれません。

みなさんの中に、上司、部下、同僚、あるいは家族、パートナー、友人などと親密なコミュニケーションをとり、相手に対して信頼感を持っている人は、どれほどいらっしゃるでしょうか。

「信じていた人に裏切られた」というのは、多かれ少なかれ誰でも一度は経験することだと思いますが、特に最近、親しいコミュニケーションをとっていたつもりが、「ハラスメント」扱いされてしまったという話や、仲間内のLINEのやり取りやDMの内容などがSNSでさらされたという話をよく見聞きするようになりました。

キャリア
企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を実現し続ける転職エージェントがしていること
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中