最新記事

日本社会

年金は何歳から受給するのが正解? 早死にしたら損だから早めにもらおう、という人の「残念な勘違い」

2023年2月28日(火)17時35分
大江加代(確定拠出年金アナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載
1万円札と年金手帳と電卓

 umaruchan4678-shutterstock


年金は何歳からもらい始めるのがいいのか。確定拠出年金アナリストの大江加代さんは「公的年金を『貯蓄』と思い込んでいると、『いつ死ぬかわからないから、早くもらったほうが得だ』という発想になってしまいます。その誤解こそが、年金を減らしてしまう原因です」という――。

※本稿は、大江加代『役所や会社は教えてくれない! 定年と年金 3つの年金と退職金を最大限に受け取る方法』(ART NEXT)の一部を再編集したものです。

「早死にしたら損」と考える人が知らない公的年金の本質

公的年金は終身で支給されます。そうすると、単純に考えれば、長生きすればするほど受給年数が増え、受け取り総額も多くなりそうです。しかし、自分がいつまで生きるかは誰もわかりませんよね。

年金の受け取り総額の例として、前回の記事では「夫婦で90歳まで生きると6000万~1億円近い」という数字を出しました。しかし、寿命によって受け取り総額は変わります。

だとすれば「早く死んだらモトがとれないよね?」「給料から毎月天引きされた分は回収できるの?」とモヤモヤした人もいるのではないでしょうか。

もしもあなたが「掛金を納めた分以上に取り戻さないと損している」と思っているなら、それは公的年金の本質を見間違えています。

公的年金は「長生きリスク」に備える保険

結論からいうと、公的年金の本質は「貯蓄」ではなく「保険」なのです。

保険というと、生命保険や自動車保険などの民間保険を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、日本には民間の保険を利用する以前に、「国の保険」、つまり「社会保険制度」があります。公的年金は、その社会保険のひとつです。社会保険には、年金以外にも健康保険、介護保険、雇用保険といったものが含まれます。これらは、「病気やケガをしたとき」「要介護状態になったとき」「失業したとき」などそれぞれ給付要件が決まっていますよね。保険とは、こうした不幸に備えるものです。貯蓄のように、将来の楽しみのために自分で貯えるものではありません。

では、公的年金はどんな不幸に備える保険なのでしょうか。

それは「予想外に長生きすること」です。

長生きすることは、本来幸せなことです。しかし、加齢によって体が弱り、働けなくなれば収入は途絶えます。それに備えて十分なお金を貯えられればいいのですが、いつまで生きるかわからないため、「いくら備えれば安心か」という答えが出ません。

そこで、いつまでも長生きしてもいいように、終身で所得保障をしてくれるのが公的年金なのです。「保険」という役割を考えれば、「損だ」「得だ」と騒ぐのはナンセンス。

たとえば、がん保険は、がんにならなければ保険金はもらえません。しかし、「がんにならなくて損した」「保険料が無駄になった」とは誰も思わないはずです。なぜなら、保険金はもらえなくても、万が一に備える安心感を買ったと納得しているからです。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ

ワールド

ゲーツ元議員、司法長官の指名辞退 売春疑惑で適性に

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中