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「ねえ、ラブホいかへん?」 家出少女に声をかけられた牧師は彼女をどうしたか

ヘッドホンをつけた女性

*写真はイメージです finwal - iStockphoto


牧師の沼田和也さんは、中学生ぐらいの家出少女から「ねえ、ラブホいかへん?」と声をかけられたことがある。夜行バスの出発を待っていた沼田さんは、少女を救おうと教会の同僚を呼び出すが、反対に「今、この子を引き受けて責任とれます?」と問い詰められる。その後、少女はどうなったのか――。

※本稿は、沼田和也『街の牧師 祈りといのち』(晶文社)の一部を再編集したものです。

「わたし小さいとき教会行ったことあるんよ」

帰省先での用事をどうにか済ませ、わたしは故郷の繁華街で夜行バスを待っていた。もう7時はまわっているはずだが、まだまだ空は明るい。乗車までだいぶ時間もある。わたしは石段に腰を下ろし、鞄から本を取り出して読んでいた。

ふと目の前に、わたしを見おろすように人が立つ気配がした。通行人とは明らかに異なり、その人物は"わたし"の前にいる。目を上げると、わたしから一歩もないほどの近さに、いつの間にか中学生くらいの少女が立っている。髪の毛は何日も洗っていないのか、頭にぺったりくっついている。血色はいいが、顔は汚れている。首元が緩んで伸びたトレーナーは垢じみて汗臭い。

彼女はわたしの目をじっと見て、言った。

「ねえ、ラブホいかへん?」

「わるいな。おれ、これでも牧師やねん。君、どうしたんや?」
「ええっ牧師さん⁉ わたし小さいとき教会行ったことあるんよ。教会学校、楽しかったなあッ クリスマス会やったよ。あとね、イースター! 卵探ししたなァ」

勢いよく話しだすと、彼女はわたしにくっつくようにぺたんと腰をおろした。どうやら育った環境それ自体は貧困家庭ではなかったらしい。塾やピアノなどに通わせてもらえるていどには、経済的にも豊かであったようだ。それに、教会への抵抗のなさ。クリスマスはともかく、イースター恒例の行事まですらすら話してくれることから、彼女はけっこう長いあいだ教会に通っていたことが分かる。そんな彼女がいったいどういう事情で今、見知らぬ男をラブホテルに誘おうとしているのか。

「知らんわ。あんなとこ家ちゃうし」

「まあ、言いたくなかったらええんやけど。家帰らんの?」
「知らんわ。あんなとこ家ちゃうし」

彼女はそういうと黙り、繁華街を歩く人々を見ている。スーツ姿で腰掛けるわたしと、そのわたしにくっついて座る彼女との組み合わせ。道行く人々はちらりとこちらを見ると、わたしたちをよけて歩き去っていく。

しばらく話していたら、彼女は「ああ、つかれたわ、ほんま」と、いきなりわたしの膝に頭をのせた。通行人の刺すような眼が気になる。とはいえ彼女を追い払うわけにもいかないし、どうしたらいいのだろう。いま警察を呼べば、とたんに彼女は逃げていなくなるだろう。わたしは彼女に膝枕を貸したまま、途方に暮れてしまった。

「なあ。ずっと家帰らんのやったら、君はどうやって生活しとん」

わたしの膝枕から彼女が応える。

「男に金もらったり、ホテルに連れてってもらったりして。そこでご飯食べたり、風呂はいったりしとんねん」
「なあ......そのうち襲われるで。いや、セックスのことやない。殴られたり蹴られたりな、お金とられたり。それと病気うつされてまう。妊娠してまうかもしれんぞ。誰か友だちおらんのか?」
「おるよ。いっしょに集まったりするよ」
「そいつら、君のこと心配しとうやろ?」
「さあ......してへんよ。みんな同じことしとうし。みんなで集まってな、そこからそれぞれ行くねん。男と別れたら、また集合する」

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