最新記事

日本経済

都心であえて「風呂なし物件」選択 ミニマルライフに追い込まれる令和の若者たち

2023年1月16日(月)12時45分
鈴木貴博(すずき・たかひろ) *PRESIDENT Onlineからの転載

「ミニマリズム」は消費を縮小させ、貧困が増大する

「大量の服を消費している経済評論家が何を言う!」と思うかもしれませんが、実は私も1年間、服の利用状況を記録し分析した後では、服はほとんど買わなくなりました。

少なくともこれからの10年間、今持っている服だけでほとんど暮らしていけますし、これから買うのは本当に気に入った服を10着だけでいいと思うようになりました。

むしろ因果関係を考えると今後問題になるのは、こういうことではないかと思います。

持続可能な社会を目指すうえで日本人はこれから先、老若男女問わずミニマリストを目指す人が増えたほうがいい。ただそのようなトレンドは本質的には消費の縮小を意味します。結果的に因果関係としてはそのことによって若者の貧困が増大するかもしれない。それで良いのかという話です。

若い人はご存じないと思いますが、1970年代の日本では地方から東京に上京した若者の多くが風呂なしの賃貸物件で暮らしていました。風呂だけでなくクーラーはもちろん暖房もまともにはない部屋で一人暮らしをするのが普通でした。

そこから日本が経済的に豊かになって、若者も快適なワンルームマンションに住めるようになったのが平成の時代。それがさらに巡ってふたたび令和の時代に木造のアパート暮らしが若者の標準に戻ってしまうのかどうか。その点がこれから先、社会問題としての論点になるのではないでしょうか。

一人当たりGDPで劣った30年前のイタリア人の豊かさ

ちなみにそのような生活も必ずしも悪いとは言い切れません。30年ほど昔の議論で「イタリア人は貧しいのかそれとも幸せなのか」という議論がありました。イタリアは21世紀に入ってEUが発展するようになってから一人当たりGDPも3万5000ドルに増加しましたが、1990年当時は2万ドル前後と欧州の中でも比較的貧しい先進国でした。

ところが実際に当時イタリアに住んでいた日本人に言わせると、イタリア人は貧しくても日本人よりも人生が豊かだと言うのです。収入は少なくても休日は町に出て濃いコーヒーを味わい、ワインを飲みながら毎日イタリアンの食事を楽しみ、大勢でワイワイ騒ぎながら人生を語り、政治を語り、愛を語り、大声で歌い、そしてサッカーの試合を見てブラボーと叫ぶ。当時、GDPがはるかに高かった日本と比べてもイタリア人の生活の方が豊かではないかというのです。

その背景には2000年以上もの時間をかけて蓄積されてきたイタリアの社会インフラの豊かさがあったのだと思います。古いものではローマ時代からの石畳があり、築何百年の集合住宅にいまだに人が快適に住める。一人当たりGDPというフローの数字では貧しくとも、社会全体のストックを勘定にいれたらイタリアは豊かな国である。だから人々も豊かな気持ちで生活をしているのだというのが「イタリア人は幸せだ」という主張の論拠でした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中