都心であえて「風呂なし物件」選択 ミニマルライフに追い込まれる令和の若者たち
日本も社会インフラは豊かになったが...
さて、そのようなイタリア人の一人当たりGDPが2万ドル前後だった時代はもう30年近い昔の話です。今ではIMF(国際通貨基金)が発表する世界の一人当たりGDPランキングで見ると日本が27位でイタリアは28位。イタリアはかなり裕福になり、私たち日本はかなり世界の中での地位を下げてきました。
一方でこの30年間で日本の社会インフラはかなり向上したことは事実です。少なくとも大都市であれば公共交通網は完成の域に達しましたし、スーパーやコンビニといった生活インフラはとても身近なところに存在しています。そこにスマートフォンという通信インフラが登場したことで地域間のインフラ格差も縮小しました。結果的に、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻、値上げラッシュという諸問題が表面化するまでは、多くの人にとって日本からは生活の不安はほとんどなくなりました。
インフラが資産となっている点は令和の日本は昭和よりも上なのですが、一方で一人当たりGDPというフローで見た場合の国民の豊かさに不安が頭をもたげる状況になっているわけです。
コンビニやユニクロも「高くて手が出ない」
そこに昨年、値上げラッシュという新たな不安要素が加わりました。これまでコンビニとファストフードと百均とユニクロがあれば生活は成り立つと思っていた若者も、百均では満足できる商品は手に入らず、コンビニとユニクロは商品が高くて買えないという新しい現実に直面するようになったのです。
結果として若者が風呂なし物件を探さなければならなくなるというのが因果関係であれば、それはミニマリストがトレンドであるのではなく、ミニマリズムでしか生き残れない時代が始まったということになります。
つまりミニマリズムの志向から始まる豊かな人生なのか、ミニマリズムに追い込まれる貧しさの先の人生なのか、そのどちらが本当の社会トレンドなのかがこれからだんだんと明確になっていくことで、その是非が問われていくことになるのでしょう。2023年はどんな一年になるのでしょうか。
鈴木貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。