最新記事

自己啓発

相手を変えるにはまず自らを変えよ ── そんな助言を禅僧がキッパリ否定するのはなぜか

2022年4月25日(月)19時00分
南 直哉(禅僧) *PRESIDENT Onlineからの転載
思い悩む女性

*写真はイメージです xijian - iStockphoto


家族や友人との関係がこじれた時、どう対処すればいいのか。禅僧の南直哉さんは「自分自身が変わろうとしても苦悩から逃れることはできない。大切なのは、人間関係の問題は自分の中にあるのではなく、人との『間』にあることに気づくことだ」という――。

※本稿は、南直哉『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本』(アスコム)の一部を再編集したものです。

こじれた人間関係は愛情や努力では変わらない

あなたは、人間関係で何か問題が生じたとき「自分の努力が足りないから、うまくいかないのだ」「私が愛情をもって接したら、相手は変わるはず」と思ってはいませんか?

あるいは、人間関係の悩みを誰かに相談したら、「相手を変えたければ、まず自分が変わりなさい」と言われたことはありませんか?

しかし、こじれた人間関係は、「愛情」や「努力」でどうにかなるものではありません。努力や愛で相手が変わると考えるのは、新たな苦しみを生むだけです。

たとえそれが家族であっても、同じです。

私は福井県の永平寺で僧侶として20年近くを過ごした後、縁あって青森県にある霊場、恐山の院代(住職代理)となり10年以上が経ちました。その間、生きづらさや苦しさを感じているという、たくさんの方々とお会いしてきました。

皆さんのお話を伺う中で、仏教の考え方がさまざまな問題の解決の糸口、生きるためのテクニックとなるのだということに気がつきました。

仏教は、こだわりや執着から起こる悩みや苦しみの正体を知り、その取り扱い方を身に付けるためのツールとして利用できるのです。ここでは、拙著『「前向きに生きる」ことに疲れたら読む本』(アスコム)の中から、多くの人が抱える人間関係の悩みを解消するためのヒントをいくつかお話ししたいと思います。

老親を一人で介護する50代男性の苦しみ

まずは家族の問題について「自分さえがんばれば」と努力し続けた、ある50代男性のお話です。

彼は役所勤めをしながら、90歳間近の父親をひとりで介護していました。父親には視覚障害と軽い認知症があり、デイサービスや介護サービスは一切拒否し、息子の介護しか受けつけなかったのだそうです。

母親はすでに亡くなっており、ひとりっ子だった彼は孤軍奮闘しましたが、体重が減ってあきらかに顔色も悪くなり、倒れるのではないかと職場で心配されるまでになりました。市の福祉担当者からも「このままでは、あなたが先に死んじゃうよ」と言われたそうです。

それでも彼が父親の介護をし続けたのは、両親の愛情を一身に受けて育ち、恩義を感じていたことと、もし父の望みどおりにしなければきっと後悔するだろうと考えていたからです。それで、「お前が親の面倒を見るのは当たり前」と言われれば、従うしかなかったわけです。

極限状態で、彼は私に電話でアドバイスを求めてきました。そうでなければ病気で倒れるか、あるいは、「父親さえいなければ」と考えるようになっていたかもしれません。

「この人さえいなければ」と考えるのは、あってはいけない話です。しかし、介護の場面で、人はそこまで追い詰められます。いびつな関係の中で「自分が我慢すれば」「私さえがんばれば」と考えて、にっちもさっちもいかなくなってしまうのです。

真面目で一生懸命な人ほど思いつめる

私は、とにかく父親をデイサービスにあずけるようにと言いました。

一日数時間だけでも、彼が父親から解放される時間を確保することが最優先だと考えたのです。男性は、「父の説得はむずかしいし、悲しませることになる」と抵抗しました。

しかし、「あなたが死んでしまったら、お父さんはもっと不幸になるでしょう」と言うと、なんとか納得してくれました。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中