最新記事

自己啓発

相手を変えるにはまず自らを変えよ ── そんな助言を禅僧がキッパリ否定するのはなぜか

2022年4月25日(月)19時00分
南 直哉(禅僧) *PRESIDENT Onlineからの転載

「がんばれば、いつか努力が報われる」
「自分が変わりさえすれば、事態は好転する」

真面目で一生懸命な人ほど、そう思いつめる傾向があるようです。

しかしいくら努力しても、人間関係は報われないことのほうが多い。そう思っておいたほうがいいでしょう。

特に、家族の問題は、思いやりや愛で強引にカタをつけようとすると、袋小路に入ってしまいます。なかでも、その傾向が顕著に表れるのが介護の問題です。

介護では、家族の中で一番力の弱い人にしわ寄せがいきます。最近、問題になっているヤングケアラーは、まさにその典型でしょう。

自分の中で解決策を探しても見つかるわけがない

こじれた人間関係が、自分ひとりの努力や愛情でどうにかなると考えるところから、まず一歩離れてみる。家族であろうが、恋愛相手や友人であろうが、年齢も性別も職業も「情」も関係なく、その人を冷静に見る。そういった訓練をしないと、状況を正しく判断できません。

そこから、その人間関係を自分の力でどうにかできるのか、できないのか。

枠組みを変える余地があるのか。それとも、関係を切るのかどうか。

冷静に考えていくのです。

このとき大事な視点が、家族から国家まで、どんな集団であっても、人間関係の基本は「政治」だと考えることです。つまり、すべての人間関係の底には「利害関係」と「力関係」が働いていると見とおすのです。

そこをきちんと見なければ、正しい状況把握はできません。

「いや、家族は愛情という絆で結ばれているだろう」と反論する人もいます。

しかし家族間であっても、利害関係と力がからんだ政治であることに変わりはありません。

人間関係を考えるとき、多くの人は「自分」の枠の中だけで考えます。そして「記憶」と格闘しています。もし、その記憶で他者との関係が正確に捉えられていれば、問題を考える材料にはなるでしょう。

でも、そこに自分の感情や自分の視点しかなく、「なぜ自分はうまくいかないんだろう」と自問自答しているだけなら、意味はありません。

閉じてしまった自分の中で、他者との関係を無視しながら解決策を探しても、見つかるわけがないのです。あるいは、ひとりよがりな解決策しか出てこないでしょう。

事態を正しく認識するためには、記憶との格闘をやめ、感情と距離をとって問題を考える必要があるのです。

悩みは人間関係の中でしか生まれない

私のもとに相談に来られる方には、2つのタイプがあります。

「今の状況がこじれて苦しい人」と「今いるところからどこかへ行きたい人」です。

両者に共通しているのは、「自分の話」がまず出てこないことです。

「子どもが引きこもっていて、どうすればいいかわからないのです」
「上司がワンマンすぎてもう限界です」
「母親と同居していますが、干渉されることが多くて我慢できません」
「愛情が感じられなくなったので離婚したいのに、夫が納得せず、苦しいのです」

もちろんご本人は、「自分の問題」を話していると思っています。しかし、どんなに深刻な問題も、そのほとんどは「自分をめぐる人間関係」についての話です。

親や子ども、配偶者やパートナー、職場の人間と自分がどんな関係にあり、どのような問題が起きていて、いかに苦しいか――。

あるとき、40歳過ぎの独身男性が、相談にやって来ました。

同居する母親が何かにつけ自分の生活に口を出す。あまりにも支配的なので一緒にいるのが苦しい。どうしたらいいだろう。それが彼の悩みでした。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中