相手を変えるにはまず自らを変えよ ── そんな助言を禅僧がキッパリ否定するのはなぜか
きちんとした仕事に就き、経済的にも安定している男性です。第三者から見れば、母親と距離をおけば解決すると、すぐわかります。
「自分ではどうにもならない大問題」でも実はシンプル
私の助言は、いたって簡単でした。
「そんなに苦しいのなら、とりあえず離れてみればいいじゃないですか。実家から独立してアパートを借りたらどうですか?」
すると彼は、驚いた顔で言いました。
「そんなこと言ったって、母はすぐ部屋まで来ちゃいますよ!」
それならいったん母親を部屋に入れ、しばらくして帰せばいいのです。泊まらせなければ、自分の時間や空間は確保できます。
しかし、「そうは言っても......」と納得した様子はありません。
本人は「苦しい」と切実に訴えます。でもじつは、本気で母親から離れたいと思っていないのだと私は理解しました。
確かに、彼にとって母の存在はうっとうしいのかもしれません。しかし、母親が食事も身の回りの世話もすべてしてくれているのですから、多少の干渉さえ我慢すれば、ラクな暮らしができているはずです。「生活の便利さ」と「親の過干渉」のどちらを選ぶのか。問題の本質は、シンプルです。
でも当人には「自分ではどうにもならない大問題」に映っていて、苦しくて仕方ない。推測するに、彼には仕事や他の人間関係で悩みがあり、その鬱々(うつうつ)とした思いを母親にぶつけていただけなのかもしれません。
感情と状況を切り分けて考える
人間関係の問題を考えるときに大事なのは、「つらい」「憎い」「嫌いだ」の話と、「今起きている出来事」とは、別ものだと理解することです。
まずその前提に立たないことには、話は始まりません。
しかし多くの人は、その2つを混同しています。だから、堂々巡りを繰り返してしまうのです。相手との関係を正確に把握することなく、自分ひとりの思い込みで動いても、うまくいくはずはありません。
「今起きている出来事がつらいから悩んでいるのに、2つを切り離して考えるなんてできない」と言う方もいます。
でも、「今の状況」と「こうあって欲しい状況」が違うのなら、問題を明らかに見なければなりません。そのために、感情と状況を切り分けるのです。
要するに、冷静になって「考える」わけです。たとえば「上司が嫌いで会社に行くのがつらい」というのは、性格的あるいは人間的に「合わない」のか、それとも仕事上で「うまくいかない」のか。前者なら、仕事上の必要以外に接触する時間を極力減らし、さらに相手を適当に褒めるかおだてるテクニックを身につけると、状況はかなり改善するはずです。
後者なら、相手を仕事に関わる「条件」として配慮しつつ、当面の課題に集中するのです。その場合、最終的な手柄を相手に譲る覚悟で臨むと、事態は好転しやすいと思います。