「世界でもっとも有名なセレブ女性から電話番号を聞きだす」 ハリウッドの伝説のナンパ師が使った禁断のワザ
だがそのインタビューは、なにを訊いても「よく分かんない」「えっ、何?」の気のない言葉が返ってくるだけだった。インタビューを成功させるには彼女を口説くしかないと決めたニールは、質問リストを折り畳んで尻のポケットに入れ、PUAの「スタイル」に変身する。
「君のことで、ほかのヤツらがおそらく知らないことを教えてあげよう」と、ニールは話しかけた。「人々はときに舞台裏の君を内気だとか不機嫌なヤツだと見ているよね。実際はそうじゃないのに」
「そのとおり」とブリトニーはうなずいた。
「君がしゃべるときの瞳を見ていたんだけど、君は何か考えるたびに視線が下がり、左に行く。これは君が運動感覚的な人物ってことだ。感情で生きるタイプの人間だ」
「驚いた」と彼女はいった。「そのとおりよ」
これは「目の動きから思考パターンを読み取る」NLPのテクニックで、ミステリーはそれを「価値証明のルーティーン」に発展させていた。ニールがさまざまな視線の読み方を教えると、ブリトニーは「心理学の授業を受けなくちゃ」と真剣になった。ニールの「ゲーム」がはじまった。
自尊心の低いスーパースター
ニールはブリトニー・スピアーズを簡単な心理ゲームに誘った。紙に1から10までの数字のどれかを書き、直感を信じてその数字を当てるというものだ。
この場面はPUAのテクニックがよくわかるので、全文を引用することにしよう。
俺は紙切れに数字を一つ書き、彼女の目の前に差し出した。
「さあ、言って」俺は言った。「最初に感じた数字だ」
「間違いだったら?」彼女は言う。「たぶん間違ってる」
これは俺たちが現場でLSEガールと呼ぶものだ。つまり自尊心が低い(Low Self Esteem)。
「何だと思う?」
「七」彼女は言った。
「じゃあ、紙をめくってごらん」俺は言った。
彼女はそろそろとめくる。見るのを怖がっているかのように。そして目の高さまで持ってきて、自分を見返すでかでかとした数字の七を見た。
彼女は叫び声を上げ、弾けるようにカウチから飛び上がると、鏡に向かって走って行った。映った自分に目を合わせながら、ぽかんと口を開けている。
「信じられない」鏡の中の自分に言った。
「やったわ」
まるで目の前で起きたことが真実であると確信するために、鏡で自分を確認しなければならないかのようだった。
「わぉ」息巻いて言った。
「やったわ」
彼女はまるでブリトニー・スピアーズに初めて会えた少女のようだった。彼女は自分自身のファンなのだ。
これはミステリーが開発したナンパトリックのひとつで、決断をせかして適当な数字を選ばせた場合、70%の確率で数字は「七」になる。ニールはその可能性に賭け、見事に「当たり」を引いたのだ。
その後、ブリトニーはテープレコーダーを止めさせて、魂について、書くことについて、人生についてニールと語り合った。
インタビューが終わると、ブリトニーはニールの肩に触れ、顔一面の笑みを浮かべていった。
「番号を交換したいんだけど」
ニールはブリトニーのフレームを動かし、それまで存在しないも同然だったさえないインタビュアーを、「大事な秘密を打ち明けられる男性」としてフレームの中心に移すことに成功した。無意識へのこの操作は、ブリトニーのLSE(低い自尊心)を利用すれば簡単だった。
ブリトニー・スピアーズはその後、結婚と妊娠・出産、離婚を繰り返し、成年後見人として資産を管理するようになった父親と裁判沙汰を起こすなど世間を騒がすことになるが、ニールの"ナンパ"はそんな彼女の将来をも予見しているようだ。
こうしてブリトニーをピックアップすることに成功したニールだが、何度も逡巡したものの、その番号に電話することはできなかった。
※2 ジョン・グリンダー、リチャード・バンドラー『エリクソン・メソード決定版 催眠誘導 相手の"心"にフワリと飛びこむ㊙ハイテク術』(小宮一夫訳、星雲社)
※3 以下の記述は、ニール・ストラウス『ザ・ゲーム 退屈な人生を変える究極のナンパバイブル』(田内志文訳、パンローリング)より
橘 玲(たちばな・あきら)
作家
2002年、小説『マネーロンダリング』でデビュー。2005年発表の『永遠の旅行者』が山本周五郎賞の候補に。他に『お金持ちになる黄金の羽根の拾い方』『言ってはいけない』『上級国民/下級国民』などベストセラー多数。