最新記事

0歳からの教育

遺伝か、生活習慣か、訓練か、子どもの運動能力を決めるのは?

2021年12月22日(水)19時55分
岡田光津子(ライター)
遊んでいる子供

幼少期には体を動かす楽しさをたっぷり味わわせて。安全な場所ならはだしで遊ぶのもいい KIEFERPIX-SHUTTERSTOCK

<0~5歳までで注目すべきは、神経型の曲線。日々の遊びの中から発達段階に合わせた体の使い方を獲得することで将来的な運動能力もアップする>

日々新しい動作を身に付けていくわが子。そんな姿を見るうちに「もしや未来のプロスポーツ選手?」などと期待する親は少なくない。

子供の運動能力を決めるのは、遺伝なのか、生活習慣なのか、それとも日々の訓練なのだろうか。

人間というのは、実に巧妙に自分の体をつくり上げていく。その指標の1つになるのが、「スキャモンの発育曲線」だ。

済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長の十河剛によると、0~5歳までで注目すべきは神経型の曲線。これを見ると0歳から発達し始め、5歳までに約80%、12歳までには100%が完成することが分かる。

つまり、0~5歳までの間にさまざまに体を動かす体験をさせ、体を上手に使う神経を発達させておけば、小学校入学前には動くことが楽しくなり、さらに運動をしたいという意欲にもつながっていくというわけだ。

では0歳から体を動かす体験は、どのようにさせたらよいのか。

十河によると、「寝返りを打てるようになりゴロンと転がったら、元の位置に戻してやり、もう一度ゴロンとしたら『よくできたね!』と褒めるなど、発育段階に合った動きに合わせて一緒に遊ぶなかで、全身の運動機能は発達する」。

また、お気に入りのおもちゃを顔の前で動かし、目でそれを追わせるという遊びも、視神経を発達させ、好奇心を高めることに役立つという。

2012年に文部科学省が公表した幼児期運動指針には、「幼児は様々な遊びを中心に、毎日合計60分以上、楽しく体を動かすことが大切」と記されており、十河もこれを推奨している。

もちろん、この60分間は親が付きっきりで見ている必要はない。この中には、保育園や幼稚園などで遊ぶ時間なども含まれているからだ。

東京学芸大学幼児教育学の吉田伊津美教授が大学院生たちと携わった研究によると、ついこの間までねんねの状態だった乳児でも、1~2歳児になるとしゃがむ、下りる、登る、押す、こぐ、引っ張る、振る、打つ、たたく、滑る、ぶら下がるなど、40種類もの動きをしているという。

「このような動きを通して、自分に対するイメージもつくり上げていく。特に乳幼児期は、運動行動を通じて、運動有能感 (運動の上達や成功体験から得られる自信)を育てている部分も大きく、健全な精神発達にも影響を与えている」と、吉田は言う。

乳幼児は「能力」と「努力」の概念がまだ区別できないため、できた・できない=能力が高い・低いと捉えず、自分が一生懸命やったからできたのだと捉える。

吉田によると、「このときに周囲から『頑張ったね』『よくできたね』など肯定的な言葉を掛けられることで、次も頑張ろうという意欲や粘り強さも育める」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

国連の食糧・難民支援機関、資金不足で大幅人員削減へ

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き

ビジネス

トランプ氏「習主席から電話」、関税で米中協議中と米

ワールド

ウクライナ和平案、米と欧州に溝 領土や「安全の保証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 7
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中