遺伝か、生活習慣か、訓練か、子どもの運動能力を決めるのは?
幼少期には体を動かす楽しさをたっぷり味わわせて。安全な場所ならはだしで遊ぶのもいい KIEFERPIX-SHUTTERSTOCK
<0~5歳までで注目すべきは、神経型の曲線。日々の遊びの中から発達段階に合わせた体の使い方を獲得することで将来的な運動能力もアップする>
日々新しい動作を身に付けていくわが子。そんな姿を見るうちに「もしや未来のプロスポーツ選手?」などと期待する親は少なくない。
子供の運動能力を決めるのは、遺伝なのか、生活習慣なのか、それとも日々の訓練なのだろうか。
人間というのは、実に巧妙に自分の体をつくり上げていく。その指標の1つになるのが、「スキャモンの発育曲線」だ。
済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科副部長の十河剛によると、0~5歳までで注目すべきは神経型の曲線。これを見ると0歳から発達し始め、5歳までに約80%、12歳までには100%が完成することが分かる。
つまり、0~5歳までの間にさまざまに体を動かす体験をさせ、体を上手に使う神経を発達させておけば、小学校入学前には動くことが楽しくなり、さらに運動をしたいという意欲にもつながっていくというわけだ。
では0歳から体を動かす体験は、どのようにさせたらよいのか。
十河によると、「寝返りを打てるようになりゴロンと転がったら、元の位置に戻してやり、もう一度ゴロンとしたら『よくできたね!』と褒めるなど、発育段階に合った動きに合わせて一緒に遊ぶなかで、全身の運動機能は発達する」。
また、お気に入りのおもちゃを顔の前で動かし、目でそれを追わせるという遊びも、視神経を発達させ、好奇心を高めることに役立つという。
2012年に文部科学省が公表した幼児期運動指針には、「幼児は様々な遊びを中心に、毎日合計60分以上、楽しく体を動かすことが大切」と記されており、十河もこれを推奨している。
もちろん、この60分間は親が付きっきりで見ている必要はない。この中には、保育園や幼稚園などで遊ぶ時間なども含まれているからだ。
東京学芸大学幼児教育学の吉田伊津美教授が大学院生たちと携わった研究によると、ついこの間までねんねの状態だった乳児でも、1~2歳児になるとしゃがむ、下りる、登る、押す、こぐ、引っ張る、振る、打つ、たたく、滑る、ぶら下がるなど、40種類もの動きをしているという。
「このような動きを通して、自分に対するイメージもつくり上げていく。特に乳幼児期は、運動行動を通じて、運動有能感 (運動の上達や成功体験から得られる自信)を育てている部分も大きく、健全な精神発達にも影響を与えている」と、吉田は言う。
乳幼児は「能力」と「努力」の概念がまだ区別できないため、できた・できない=能力が高い・低いと捉えず、自分が一生懸命やったからできたのだと捉える。
吉田によると、「このときに周囲から『頑張ったね』『よくできたね』など肯定的な言葉を掛けられることで、次も頑張ろうという意欲や粘り強さも育める」。