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新型コロナウイルス

緊急事態宣言は変異株の拡大を抑え込むか? 進化生物学的に危険な「日本のワクチン接種計画」のリスク

反撃を許す時間を与えることは、変異を許す時間を与えること

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時間を与えれば与えるほど、ウイルスに抵抗性の変異のチャンスを与えることになる。画像は首相官邸ウェブサイトより。

突然変異はランダムに、しかも非常に早い速度で黙々とウイルスに生じている。

たいていの変異は、抵抗性とは関係のない小さな変異であるのは確かだろう。けれども、ランダムに生じるのだから、ワクチン抵抗性に関連した部位に変異が生じる可能性も否定できない。

進化の目はその突然変異を見逃すはずがなく、そして瞬く間に抵抗性をもった変異体が蔓延する恐れがある。敵に反撃を許す時間を与えることは、抵抗性の変異を許す時間を与えることになる。

2021年3月8日、南アフリカ型の変異体の性質が従来のワクチンによる予防効果を脅かすという研究結果がNature誌に公表された(*6)。この結果は別の研究チームによっても支持されている(*7)。

ウイルスは絶えず変異している。進化生物学的に考えると、ワクチン抵抗性を持ったウイルスはいつ現れてもおかしくない

いったんそれが現れると、ワクチン接種というウイルスに対しての選択圧から逃れたその変異体は、一気に世に蔓延するだろう。そして製薬会社と抵抗性ウイルスとの「鼬ごっこ」が始まり、私たちはまた一からすべてのことをやり直さなくてはならない。


■参考文献
*1 Benedict MQ 2021. J Med Entomol, doi:10.1093/jme/tjab024
*2 Knipling EF 1959. Science 130, 902-904
*3 Koyama J et al. 2004. Annu Rev Entomol 49, 331-349
*4 Hibino Y, Iwahashi O 1991. Appl Entomol Zool 26, 265-270
*5 氏家 誠 2020. 化学 75, 43-47
*6 Wang P et al. 2021. Nature, doi.org/10.1038/s41586-021-03398-2
*7 Planas D et al. 2021. Nature Medicine, doi.org/10.1038/s41591-021-01318-5

宮竹貴久(みやたけ・たかひさ)

岡山大学学術研究院 環境生命科学学域 教授
1962年、大阪府生まれ。理学博士(九州大学大学院理学研究院生物学科)。ロンドン大学(UCL)生物学部客員研究員を経て現職。Society for the Study of Evolution, Animal Behavior Society終身会員。受賞歴に日本生態学会宮地賞、日本応用動物昆虫学会賞、日本動物行動学会日高賞など。主な著書には『恋するオスが進化する』(メディアファクトリー新書)、『「先送り」は生物学的に正しい』(講談社+α新書)、『したがるオスと嫌がるメスの生物学』(集英社新書)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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