最新記事

新型コロナウイルス

緊急事態宣言は変異株の拡大を抑え込むか? 進化生物学的に危険な「日本のワクチン接種計画」のリスク

2021年4月26日(月)20時00分
宮竹貴久(岡山大学学術研究院 環境生命科学学域 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

ワクチン接種「先送り」は進化生物学的に正しくない

新型のコロナウイルスもハエと同じ生物である。そのため、常に変異し続けている。ウリミバエが卵から親になって子を産むまでは1カ月はかかるが、ウイルスは半日から1日程度で世代交代が起きる(*5)。つまり、変異体の現れるスピードが圧倒的に早いわけだ。

新型コロナウイルスが中国・武漢に出現してわずか2カ月の間に世界で3つのタイプの変異型が生じたことは2020年の同じ時期に寄稿した(参考記事はこちら)。

変異したウイルスのほとんどは、ワクチンによって感染できなくなるだろう。しかし、わずかでもワクチンによる防御を見破る仕組みを持ったウイルスが現れると、その変異ウイルスはワクチン接種が速攻で進まない地域においては、ウイルスの大半を占めるように進化してしまうと予測される。

インフルエンザウイルスに複数のタイプがあり、そのタイプによってワクチンによる対処法が異なるのはお馴染だ。

いったん、ワクチンの防御システムを破る変異体が出てくれば、感染源のある地域では、その変異体が一気に蔓延する可能性がある。ワクチンは、その地域にある感染源に一気にできる限り多くの人に接種して、感染源をなくすことが、進化生物学的に考えると大切なのである。

この件に関して「先送り」は生物学的に正しくない。

「ワクチン後」の世界に起こること

これまで新型コロナウイルスは、ワクチンの存在しない世界で感染を爆発的に拡大させてきた。ここで立ち止まって、少し考えてみてほしい。

ワクチンのない「これまで」と、ワクチンの存在する「これから」では、ウイルスの変異の仕方はどう変わるだろうか。

これまではウイルスに生じたほぼすべての変異が生き残ることができたに違いない。イギリス型のように感染力のより強い変異体は、より生き残りに長けていたので、あっと言う間に従来のものと置き換わってしまった。さて、ワクチン接種が始まったあとでは、どのような変異体が生き残りやすいだろうか。

ワクチンによって人が獲得した免疫に防御される変異体は、今後は容易には生き残れない。

ウイルスは常に変異し続けている。無数の変異のなかに1個でも免疫をかいくぐる仕組みを持った変異体は、ワクチンの抵抗性を獲得したウイルスとして、あっと言う間に地域にそして全国に拡散するだろう。大事なことは、ウイルスにそのような変異を起こす時間的なゆとりを与えるのは、限りなく危険な行為だということだ。

たとえば小さな離島のように、ある地域で一気に全員にワクチンを接種できるのは、進化生物学的に考えると理想である。ウイルスの感染源が消滅するため、ウイルスも消滅するしかない。しかし、地域の一部の人たちにワクチンを接種して、徐々にその地域の人間集団全体に接種を広げていく手法が、とても時間のかかるものであった場合......その結末は想像に難くない。

ハエやヒアリの根絶でも同じなのだが、被害(感染)の激しいところを集中的に叩きつつ(「封じ込め」)、そこへの「移動規制」をどう徹底していくかが肝要なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中