最新記事

ルポ特別養子縁組

TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

こうした過程を経て特別養子縁組を希望する人が、養親登録の過程で究極の個人情報どころか心の内まで丸裸にされ、親としての適性があるか否かを他人に判断された上で、ある意味「選ばれた人」だけが親になれる......多くの家族と同様、子供が欲しい、育てたいという思いだけでは駄目なのか。

あえてうがった見方を鈴木にぶつけると、毅然とした答えが返って来た。「特別養子縁組は子供が1人の人間として権利を保障されながら自立していくためのサポートをする、あくまで子供のための福祉の制度なんです。大人の希望や欲望を満たすための子育てになってはいけない」

だからこそ、なのだろう。養子縁組がごく身近にあるアメリカから帰国し、家族の形として特別なことではないという「ライトな感覚」でやって来た平本夫妻に、鈴木は試すように厳しい質問を重ねた。久保田が受けた印象では、どんな子供が生まれてきても受け入れて育てる覚悟はあるか、その意志を誓えますかと追及されているように感じた。

男の子か女の子かを選べないのはもちろんのこと、鈴木がいた団体では、生みの親側の情報は事前には知らされない。加えて、夫婦のどちらかが亡くなった場合はどうやって育てるか、家族の理解とサポートを得られるのか否かなど自分で産む場合には他人に問いただされるはずのないことまで確認される。極めつきは、後になって何らかの障害が出てくるかもしれません、その可能性を受け入れられますか――。

他方で、より子供目線で現実を直視すれば、養親に迎えられるのは「選ばれた子供だけ」とも言える。特別養子縁組を斡旋している民間団体ベアホープの代表、ロング朋子によると、「特別養子縁組を望む人はたくさんいます。養親希望者の説明会を告知すると、あっと言う間に座席が埋まる。でも、その全員が『どんな子供でも迎えたい』と言ってくれるかというと、そうではない」。

養親になりたいと希望する人は決して少なくない一方で、虐待を受けて医療的なケアを必要としている子供や障害を持った子供、高年齢児などが今もどこかで受け入れ家庭を待っているという状況がある。性暴力による妊娠など生みの親側の事情を例として聞いて、受け入れを尻込みする夫婦もいる。

17年の厚労省資料では、児童相談所、民間団体ともに特別養子縁組の「養親候補者が不存在だったケース」のうち、「児童の障害等の要因のため希望する養親候補者がいなかった」が45%と最も多い。特別養子縁組事業に携わって来年で10年目という鈴木は、これまで生みの親側の相談に500件ほど応じてきたが、縁組成立に至ったのは243件だ。

養親希望者と養子候補者、双方が列を成しているのに、「マッチング」が成立しない。ここに、特別養子縁組が「あくまで子供のための制度」であると強調される理由がある。子供を育てたい大人の「エゴ」を満たすための制度ではない、と。

冒頭に、特別養子縁組は「生みの親、養子となる子供、育てる親それぞれが幸せになることを積極的に目指す制度である」と書いた。しかし、この3者のうち子供だけは、選択権も選択肢も持っていない。子は親を選べない。

ロングは言う。「子供のことを全人格的に受け入れられる養親希望者ばかりではないという状況では、親になりたい大人のための制度でもある、と言うことはできない。家族になりたい『親子のための制度』にはまだ遠い」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中