TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ
ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION
こうした過程を経て特別養子縁組を希望する人が、養親登録の過程で究極の個人情報どころか心の内まで丸裸にされ、親としての適性があるか否かを他人に判断された上で、ある意味「選ばれた人」だけが親になれる......多くの家族と同様、子供が欲しい、育てたいという思いだけでは駄目なのか。
あえてうがった見方を鈴木にぶつけると、毅然とした答えが返って来た。「特別養子縁組は子供が1人の人間として権利を保障されながら自立していくためのサポートをする、あくまで子供のための福祉の制度なんです。大人の希望や欲望を満たすための子育てになってはいけない」
だからこそ、なのだろう。養子縁組がごく身近にあるアメリカから帰国し、家族の形として特別なことではないという「ライトな感覚」でやって来た平本夫妻に、鈴木は試すように厳しい質問を重ねた。久保田が受けた印象では、どんな子供が生まれてきても受け入れて育てる覚悟はあるか、その意志を誓えますかと追及されているように感じた。
男の子か女の子かを選べないのはもちろんのこと、鈴木がいた団体では、生みの親側の情報は事前には知らされない。加えて、夫婦のどちらかが亡くなった場合はどうやって育てるか、家族の理解とサポートを得られるのか否かなど自分で産む場合には他人に問いただされるはずのないことまで確認される。極めつきは、後になって何らかの障害が出てくるかもしれません、その可能性を受け入れられますか――。
他方で、より子供目線で現実を直視すれば、養親に迎えられるのは「選ばれた子供だけ」とも言える。特別養子縁組を斡旋している民間団体ベアホープの代表、ロング朋子によると、「特別養子縁組を望む人はたくさんいます。養親希望者の説明会を告知すると、あっと言う間に座席が埋まる。でも、その全員が『どんな子供でも迎えたい』と言ってくれるかというと、そうではない」。
養親になりたいと希望する人は決して少なくない一方で、虐待を受けて医療的なケアを必要としている子供や障害を持った子供、高年齢児などが今もどこかで受け入れ家庭を待っているという状況がある。性暴力による妊娠など生みの親側の事情を例として聞いて、受け入れを尻込みする夫婦もいる。
17年の厚労省資料では、児童相談所、民間団体ともに特別養子縁組の「養親候補者が不存在だったケース」のうち、「児童の障害等の要因のため希望する養親候補者がいなかった」が45%と最も多い。特別養子縁組事業に携わって来年で10年目という鈴木は、これまで生みの親側の相談に500件ほど応じてきたが、縁組成立に至ったのは243件だ。
養親希望者と養子候補者、双方が列を成しているのに、「マッチング」が成立しない。ここに、特別養子縁組が「あくまで子供のための制度」であると強調される理由がある。子供を育てたい大人の「エゴ」を満たすための制度ではない、と。
冒頭に、特別養子縁組は「生みの親、養子となる子供、育てる親それぞれが幸せになることを積極的に目指す制度である」と書いた。しかし、この3者のうち子供だけは、選択権も選択肢も持っていない。子は親を選べない。
ロングは言う。「子供のことを全人格的に受け入れられる養親希望者ばかりではないという状況では、親になりたい大人のための制度でもある、と言うことはできない。家族になりたい『親子のための制度』にはまだ遠い」