アメリカに初めて「ゴッホの絵画」を輸入した男...2500点の名画を集めた大富豪バーンズの知られざる「爆買い人生」
SHOPPING FOR A MUSEUM
33点の絵画から受けた衝撃
ゴッホと共にセザンヌが1点、ルノワールのマイナーな作品数点も届いた。さらにパリの筋金入りの前衛芸術家たちも仲間と認めたに違いない「ペカソ」とかいう画家の作品も、1点あった。
もっともグラッケンズが選んだのはピカソがラディカルな画風をようやく確立し始めた20世紀初頭の、比較的分かりやすい女性のポートレートだった。
カフェでたばこを吸う赤毛の女の肖像は、グラッケンズがあまり評価しなかったジャンジャック・エンネルの赤毛の女性像と比べてもさほど新鮮味が感じられない。価格も200ドルと、セザンヌに支払った金額のわずか15分の1だった。
近代絵画を見慣れた21世紀の目には無難に映るかもしれないが、バーンズはこの33点にとてつもない衝撃を受けたはずだ。モダンなフランス絵画の買い付けを依頼したバーンズも、そうした作品をじかに見た経験はほとんどなかった。
フランスから届いた荷を解き、自分の周りではじける斬新な色彩やフォルムにさぞかし驚いたことだろう。
だが、バーンズは衝撃を受けるのが好きだった。何しろ芸術に目覚めた原点は、猛スピードで走る消防車を目撃したことと宗教的な恍惚体験にあると語っていたのだ。収集作品にも、彼はインパクトを求めた。