息子世代との恋もOK?...ハリウッド映画で「熟女×年下男性」の年の差カップルが大流行している理由
Revamping the Age-Gap Story

公私共に成功した女性CEOが30歳年下のインターン男性の挑発的な誘いに負け、愛欲に溺れてゆく姿を57歳のキッドマンが大胆に演じる ©2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
<名作『雨に唄えば』や『めまい』の裏側では性暴力が? 年配男優に若い女優をあてがうのはもうたくさん。エンタメ界の悪しき慣行を揺さぶる映画・ドラマが続々と登場中──>
英語のスラングで「クーガー(cougar)」と呼ばれる肉食系熟女は、映画やドラマでは「年下男を狙う悪あがき女」として描かれるのがお決まりだ。だがハリウッドでは今、そんな年齢・性差別丸だしの定番パターンに揺さぶりをかける意欲作が次々に生まれている。
サイレント映画の時代から、スクリーン上では熟年男性と若い女性のカップルが理想とされてきた。現実の世界では(少なくとも欧米文化圏では)平均的なカップルの年齢差はぐっと小さく、アメリカでは2.2歳だ。
しかし映画の影響もあってか、人々の好みは現実とは異なる。昨年12月に発表されたヨーロッパの異性愛者の好みに関する調査結果を見ると、男性は一般的に年下の女性を好み、年齢が上がるにつれてどんどん若い女性を求めるようになる。
逆に女性は年齢が上がるにつれて自分と近い年齢の相手を求めるようになり、60代になると「少し年下」の男性を好む傾向がある。
ハリウッドの往年の名作には主演の男優と女優の年齢差が大きく開いた作品が多い。
『雨に唄えば(Singin' in the Rain)』(1952年)では当時19歳のデビー・レイノルズ(Debbie Reynolds)が20歳年上のジーン・ケリー(Gene Kelly)の相手役を務め、58年の『めまい(Vertigo)』ではキム・ノヴァク(Kim Novak)が25歳の若さで当時50歳のジェームズ・スチュワート(James Stewart)を幻惑する女を演じた。
年代が下って72年の『ラスト・タンゴ・イン・パリ(Last Tango in Paris)』で当時48歳のマーロン・ブランド(Marlon Brando)と激しいセックスシーンを演じたマリア・シュナイダー(Maria Schneider)はまだ19歳だった。
レイノルズとシュナイダーは後に撮影現場での虐待的な力関係を告発している。レイノルズはケリーとのキスシーンで喉の奥まで舌を挿入されたことにショックを受け、シュナイダーはレイプ場面の撮影で事前に何の説明もされなかったためブランドとベルナルド・ベルトリッチ(Bernardo Bertolucci)監督に性的暴行を受けたように感じたという。
93年に全米公開された『ジュラシック・パーク(Jurassic Park)』で20歳年上のサム・ニール(Sam Neill)演じる生物学者の恋人役を演じたローラ・ダーン(Laura Dern)は、当時のハリウッドではこうしたキャスティングが当然のようにまかり通っていたと語っている。
だが、父と娘ほど年の離れたカップルを当たり前とするハリウッドの「常識」は今の時代には通用しない。最近、問題になったのは2023年の『オッペンハイマー(Oppenheimer)』だ。
主演のキリアン・マーフィー(Cillian Murphy)と彼の愛人を演じたフローレンス・ピュー(Florence Pugh)の年の差は20歳。ピューの全裸シーンがやけに長く、実際の2人の年齢差(10歳)より誇張されていたこともあって、ネット上で激しくたたかれた。
息子世代との恋もあり
年上の女性と若い男性の性的関係を扱ったハリウッド映画では、女性を「毒女」に仕立てる展開がお約束だった。
いい例が『卒業(The Graduate)』(67年)だ。ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)演じる大学出たての青年はアン・バンクロフト(Anne Bancroft)演じるロビンソン夫人の誘惑にコロリと負ける。
もっとも夫人はあくまで脇役。容貌の衰えを嘆く中年女性で、実の娘と張り合うが、ラストで男を「勝ち取る」のは娘のほうだ。
今ではこうした定番パターンは崩れつつある。40歳以上の女優を主演に据えた新作が次々に生まれているためだ。今年公開の『ベイビーガール(Babygirl)』では57歳のニコール・キッドマン(Nicole Kidman)演じる女性CEOが30歳年下のインターン男性との愛欲に溺れる。
昨年の『アイデア・オブ・ユー(The Idea of You)』では、42歳のアン・ハサウェイ(Anne Hathaway)演じるシングルマザーが20代のポップスターと恋に落ちる。『卒業』と違って、この映画では主人公の恋を娘が応援してくれる。
昨年には『ファミリー・アフェア(Family Affair)』(主演はキッドマン)、『ロンリー・プラネット(Lonely Planet)』(主演は57歳のローラ・ダーン)とネットフリックス(Netflix)が立て続けに熟女と年下男性の恋を描くラブコメを配信。ネット上ではこれを「クーガーの年(the year of the cougar)」と揶揄する声も上がった。
そんな声に負けず、このトレンドは続きそうだ。『ブリジット・ジョーンズの日記(Bridget Jones)』シリーズ最新作『サイテー最高な私の今(Mad About the Boy)』では、50代半ばになった主演のレネー・ゼルウィガー(Renée Zellweger)が29歳のレオ・ウッドール(Leo Woodall)とデートする。
ハリウッドの監督と脚本家に占める女性の割合は今でも23%にすぎない。製作過程での方針決定に関わる女性スタッフが増えれば、女性の視点を生かした映像作品がもっと増えるだろう。
調査によると、ハリウッド映画ではセリフのある役を演じる女優の割合は35%にすぎず、30歳を過ぎると女優に回ってくる仕事はがくんと減るという。
一方で最近ではリース・ウィザースプーン(Reese Witherspoon)をはじめプロデュースを手がける女優が続々と現れている。こうした流れが続けば、女性たちのリアルで多彩な姿を描いた作品が次々に生まれ、古い慣行を吹き飛ばすだろう。
Lucy Brown, Professor of Film and Television, Head of Screen, Assistant Head of School, Westminster School of Media and Communications, University of Westminster, University of Westminster
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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