現代のファシズム台頭を睨みつける...『ウィキッド』は過去のミュージカル映画の「失敗」を乗り越えて名作に
A Stunning Return to OZ

グリンダ(右)とエルファバ ©UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
<オズの魔法使いへのオマージュも。『キャッツ』や『レ・ミゼラブル』の失敗を乗り越えて、『ウィキッド ふたりの魔女』は友情とプライドの物語として咲き誇る──(ネタバレなしレビュー)>
大成功を収めたミュージカルの映画化はめったに成功しない。1950年代に『南太平洋(South Pacific)』がカラーフィルターを使う演出で不評を買い、最近も『キャッツ(Cats)』が惨敗するなど、落とし穴はたくさんある。
私たちはライブパフォーマンスを鑑賞するとき、現実ではないことを忘れて創作の世界に入り込み、現実離れした設定や出来事も積極的に受け入れる。しかし、映画では自然主義が邪魔をする。『ウエスト・サイド・ストーリー(West Side Story)』のギャングたちの攻撃的なバレエも、ニューヨークの荒涼とした現実の街角で撮影されるとわざとらしく見える。
2003年に初上演されたミュージカル『ウィキッド(Wicked)』は、ブロードウェイの興行成績は歴代2位(1位は『ライオン・キング(The Lion King)』)。世界各地で大成功を収めてきた。
そして今、2部構成の映画となってスクリーンに登場する。第1部の『ウィキッド ふたりの魔女(Wicked)』に続き、第2部(Wicked: For Good)は11月に全米公開の予定だ。
原作はグレゴリー・マグワイア(Gregory Maguire)の1995年の小説『ウィキッド──誰も知らない、もう一つのオズの物語(Wicked)』(邦訳・早川書房)。湾岸戦争とサダム・フセインにインスピレーションを得て、ライマン・フランク・ボームの小説『オズの魔法使い(The Wonderful Wizard of Oz)』を題材に、人が社会でどのように悪魔化されていくかを描いている。
物語はドロシーがオズの国にたどり着く前にさかのぼる。ドロシーが倒すことになる「西の悪い魔女」は初めから邪悪だったのではなく、後の「善い魔女」と友情を結ぶが、オズの国の政治に翻弄され変わっていく。
名作へのオマージュも
小説の映画化権はデミ・ムーア(Demi Moore)とユニバーサル・スタジオがいち早く手に入れたものの、脚本作りに苦戦。作曲家・作詞家のスティーブン・シュワルツ(Stephen Schwartz)がミュージカルにしようと提案した。
製作陣は脚本にウィニー・ホルツマン(Winnie Holzman)を迎え、マグワイアの原作の政治的要素の多くを排除し、「ピンク色のかわいらしい」グリンダと、「緑色の肌の異端児」エルファバのフレネミー(友でもあり敵でもある関係)を中心とするストーリーを作り上げた。
映画版『ウィキッド ふたりの魔女』のジョン・M・チュウ(John M Chu)監督は、原作の政治的なルーツに立ち返り、ポピュリストのリーダーが台頭する時代において、現代のファシズムの危険性に警鐘を鳴らす。
特に強調されているのは、オズの世界で言葉を禁じられた動物たちだ。舞台と違って、映画では完全に動物の姿をしており、社会が理不尽な政治的行動に驚愕して黙り込むさまと、群集心理の思考を忘れた無慈悲さを語っている。
エルファバとグリンダは、オズの国のシズ大学で出会う。
大学生活の詳細な描写が続いて物語は勢いを失いかけるが、学園コメディーの『ミーン・ガールズ(Mean Girls)』と『ハリー・ポッター(Harry Potter)』の中間にとらわれたかのように感じ始める頃、観客はエルファバとグリンダと共にエメラルドシティへと向かう。
ミュージカルの映画化の典型的な落とし穴はキャスティングだ。古くは『メイム(Mame)』のルシル・ボール(Lucille Ball)や、最近では『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』のラッセル・クロウ(Russell Crowe)など、その失敗は致命的になりかねない。
幸い『ウィキッド』の人選は見事だ。アリアナ・グランデ(Ariana Grande)は、何かと大げさなわがまま娘グリンダを精密な歌声で演じている。運動神経抜群で知ったかぶりの人気者フィエロを演じるジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)。
ミシェル・ヨー(Michelle Yeoh、シズ大学の学長マダム・モリブル)とジェフ・ゴールドブラム(Jeff Goldblum、オズの魔法使い)は、説得力のある歌声で不気味な重厚感を漂わせている。
最も素晴らしいのはエルファバを演じるシンシア・エリボ(Cynthia Erivo)で、主人公に静かな威厳をもたらしている。黒人女性で性的少数者であるエリボにとって、エルファバの物語はプライドの物語だ。本当の自分を決して恥じず、自分の可能性を最大限に発揮しようとする女性だ。
エリボの独特の歌声は、ミュージカル版のスタイルを忘れさせるほど。舞台にはないクローズアップの場面での表現や、苦悩をシンプルな視線で伝えるなど、エリボの才能の新たな次元が花開いた。
映画版は2次元と3次元のデザインを見事に結集させ、オズの伝説を題材にしたさまざまな映像作品からの引用を現代的な感覚で表現している。さながら機械仕掛けのオズだ。
1939年にジュディ・ガーランド(Judy Garland)が主演した映画『オズの魔法使(The Wizard of Oz)』の象徴的なシーンも、頻繁に登場する。
例えば、エルファバがライオンの子供を自転車のカゴに乗せて運ぶシーンは、ガーランド版でドロシーの飼い犬トトが自転車でさらわれる場面を思い出させる。
ボームの原作へのオマージュも見られ、特に原作のオズの奇妙さは、ほかのどの映画版より的確に描かれている。
最高のミュージカルは綱渡りを毎日、披露するようなものだ。完璧な振り付けで説得力のある演技を繰り返し、週に8回、高音を出さなければならない。それに対し、ミュージカル映画は撮り直しや吹き替えが可能なため、このスリリングな感覚がどうしても欠ける。
映画版『ウィキッド』も舞台の圧倒的なエネルギーの再現に苦労しているが、壮大なスケールで物語を再創造しつつ、熟慮された演出で奥深いテーマと感情をさらに掘り下げている。
願わくばジュディ・ガーランドにも見てほしかった。
WICKED
『ウィキッド ふたりの魔女』
監督/ジョン・M・チュウ
主演/シンシア・エリボ、アリアナ・グランデ
日本公開は3月7日
Julian Woolford, Head of Musical Theatre, GSA, University of Surrey
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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