ピアニスト角野隼斗の音を作る、調律師の知られざる世界...「かてぃんピアノ」はこうして生まれた
BEHIND EVERY NOTE
その修正作業のため、リハーサルを中断してもらうこともある。それが5分のときもあれば、15分のときもあれば。できるだけ一発で成果を上げたいから、本当に集中して考えます。
懐中電灯を音響さんに持ってもらったりとか、テープをこの長さで鍵盤の数だけ切ってもらえないかとお願いしたり、こちらも必死です。
彼は耳がものすごくいい。昨年のツアーのリハーサルで、グランドピアノのヒンジあたりを指さして、ここからノイズが出ているという。近寄ってみると、かすかに共鳴していた。本来なら調律師のほうが先に気付くものですが、自分より鋭いピアニストというのは、めったに見ないので驚きました。
リハーサルが終われば、もう一度開場直前に音を確認します。コンサートが終わってからも、あのとき言われたことはこういうことだったのかな......と考えながら翌日の公演に生かします。できる限りピアニストが表現したいものを実現させたい。
角野さんは、毎日の演奏で、何か価値あるものをさらに獲得していく。獲得を積み重ねて、今までの自分をさらに更新し続けていくのだと思います。あれほど新しいことに研究熱心な人はいません。
角野さんは、どんなに忙しくても、常に平常心に見える。どんどん高いところに向かっているけれど、謙虚な人柄は全く変わりません。