「私たちが客に恋すると思うわけ?」元ストリッパーが見たアカデミー賞期待作『アノーラ』のリアル
A Sex Worker’s Take on “Anora”
「結局は男性視点」か
でも、私が話を聞いたセックスワーカーの中には、アニーの格闘シーンについて別の見方をする人もいた。
ロサンゼルス在住で元コールガールのミアは「彼女が殴られるシーンは、私たちセックスワーカーが実際に受けている暴力の真実そのもの」だとした上で、「あれがコメディーの要素として描かれていたことに、正直言ってぞっとした」と語った。
同じくロサンゼルス在住のセックスワーカーであるテラも、あのシーンを見て、ベイカー監督も結局は「男」なんだと思ったと言う。
「脚本も監督も男でしょ。いろんな人がアドバイスしたとは思うけど、結局は男目線で撮られた映画。そんなの、うんざりするほど見てきた」
実際、男性がセックスワーカーの気持ちを理解するのは(その人自身がセックスワーカーでない限り)難しい。だから本来なら、私たちセックスワーカーが私たち自身の映画を撮るべきだ。現に自主制作の映画はある。でもメジャー映画では皆無に等しい。
だからベイカーのような監督は貴重な存在──なのだけれど、正直言って『アノーラ』のラストシーンはいただけない。あそこでアニーに恋愛感情があるのは不自然で、どう見ても映画会社の要望で無理に付け加えたとしか思えない。あんなのは私たちのハッピーエンドじゃない。